こんな風に、独りで年を取ってゆくのは堪えがたい。
そんなことを言ったって、仕方がない。
そんな人はこの世界にごまんといるじゃないか。
ぼくが堪えられないはずはない。
何故ならぼくは神を愛している。
神を愛しているなら、堪えられる。
どんな苦しみにも。
でも神を愛していない者は堪えられる力を失い、みずから命を絶つ。
そんな世界にぼくが何故、生きてゆかなくてはならないのか?
ぼくはそう神に問う。
神はこう答える。
それでもあなたは生きてゆくしかない。
あなたはわたしを愛しているのだから。
死んであなたがわたしを悲しませることを、あなたは決して許さない。
わたしはあなたに愛されているのだから。
わたしはあなたに悲しまされるべきことを、あなたにしたのだろうか。
そしていつまでわたしはあなたに悲しまされつづけなければならないのかをあなたは知っているだろうか。
わたしはあなたのすべてを知るものだが、あなたはわたしの何を知っているだろうか。
わたしがあなたの何に悲しまされるのかをあなたは知っている。
あなたはだれをも哀れんではならない。
わたし以外に。
何故ならあなたの最も悲しませる存在はわたしであることをあなたは知っているからである。
あなたはわたしだけを憐れみ、わたしだけのために生きなさい。
それができない者はわたしを愛してはいない。
あなたのなかにわたしは存在しないしあなたはわたしによってできてもいない。
あなたは不完全品である。
わたしが完全であるのだからあなたも完全で在りなさい。
わたしがどれほどあなたを愛しているのか、あなたは知らないのである。
そのためあなたはまいにちのように闇のなかに息をしている。
あなたの吐く息は恐ろしく冷たく、何をも生かさない。
ゆいいつあなたによって生かされるもの、それは死である。
あなたがいつから死を愛しているかわたしは知っている。
あなたはすべての存在のなかで、わたしより最も遠い存在である。
あなたはいつの日かわたしから離れ、死と結婚した。
あなたは忘れてはならない。
あなたが死に覆い尽くされるまで、あなたの父であり夫であるものはわたしであったのである。
わたしがあなたの住む星に、安らぎをもたらす為に降りて来たのではない。
あなたの父であり夫である者を殺害すべく剣をもたらしに来たのである。
あなたが死に連れ去られ、もう二度と戻らないか、わたしがあなたを連れ去り、永遠にわたしの側で生きるか、あなたのわたしへの愛がそれを知るだろう。
あなたのうちは、いまや腐敗物で埋め尽くされているのである。
あなたは日に日に、死の彫刻作品を作り上げるように生きるものが鑿(のみ)で削り取られ、その剥がされ落ちた生きるものが死の床であなたを呪い、あなたを欲していることをあなたは知らないのか。
あなたはわたしによって生まれたのだからわたしによって生きるもので在りなさい。
あなたの愛する夫はわたしと見分けがつかない者である。
わたしは物でも霊でもなく、死でもない。
わたしはあなたの最も愛する存在である。
死が、最もあなたを愛するならあなたは永遠に忘れ去られる者となる。
わたしはあなたの夫を殺し、あなたの支配者としてあなたに立ち戻らねばならないのか。
その日流される血があなたの血となることを。
死の底であなたを求め手を伸ばすあなたの夫を、その血の滴る剣で突き刺し、彼の血は絶たれるのである。
あなたは何ゆえに悲しむだろう。
彼によってか、わたしによってか、あなたは悲しみ死を望む。
そしてあなたはみずからその剣で突き刺し、彼の闇に見えなくなる。
この闇のなかに、わたしはやっと、あなたのうちに帰りし眠る。
安かれ。
父と母の御胸に懐かれ。