死ねば良い。
神による、自動筆記で書いた俺の詩に、腐った体液と、糞を投げ付けたあいつは。
今すぐに、死ねば良い。
死んでくれ。頼むから、今すぐに死んでくれ。
俺はそして到頭、あいつを呪い殺しせしめた。
そこに転がっているそいつ。
肉饅みたいやった。
肉饅やんけ。
俺はそいつを見下ろし言った。
そこへ鍋で沸かした湯を降り注ぎ、デッキブラシで擦った。
すると床一面に、そいつは拡がった。
あらゆる星々が、その床で呻いていた。
ピンセットで一匹一匹拾い、俺は瓶に入れて、『細長くて、蠢く生きた白い毬藻』というタイトルでメルカリで2,500円で無数に出品した。
「これは本当に毬藻なんですか?」というふざけたコメントをした人間に対し、「俺が毬藻だと想ったから毬藻なんですだよ。」と返信し、あとのすべてのコメントを一切無視した。
だがそれでも、月に14万円近く、売れているんだよね。
俺はその金で生活をしている。
そいつは床で、今も呻いているが俺は、それを生きたものとしては見てはいない。
例えるならそこに川が流れている。
それと同じようなものとして俺は見ているんだ。
大体の日に於いて、そいつは床に拡がっているのだが、たまに固まって、窓の外を眺めている日もある。
俺はそいつに話し掛ける。
「何を見ているのだね?」
するとそいつは振り返り、はにかんで笑ったあといつもこう返す。
「あれは何かなと、観ていたんです。」
「どれだ?」
俺はカーテンを開き、血みどろの世界を眺め渡す。
「何も見えない。どれのことを言っている?」
「流し素麺みたいなものか。」
俺は溜め息を吐き、カーテンを閉めて糞をしにゆくのだが、出る気配がしないのでまた戻ってくる。
トイレにあった読み掛けのカミュの『幸福な死』の表紙を観て、俺は存在の、幸福な死とはどんなものだろうと考えを廻らせる。
幸福な生の最後には、不幸な死が笑顔で迎えていることだろう。
不幸な生には、不幸な死が慄然と待ち構えていることだろう。
この世界に、幸福な死は存在しない。
誰がどう生きようとも、幸福な死は遣って来ない。
それは、遣って来ることができないからだ。
それを待ち構えている者には遣って来ないし、それを恐れている者にも遣って来ないし、何にも想っていない者にもそれは遣って来ない。
誰のところにも、それは遣って来ない。
それはでも宇宙に存在していて、何かを想ったり、悲しんだり、喜んだりしている。
それは自分以外の、すべての逢うことの叶わない存在たちに対して無想し続ける。
そしてこの宇宙の、中に在るものと外に在るものについて弄ったり、丸めたり、捏ねたり、切ったり、細長くしてうどん状にしたり、顔を描いたりする。
ある日には自分の手足をそれにつけ、ある日にはそれを引きちぎる。
芋虫のように床を這ったり、樹に登ったりする。
鼻糞を海に投げて、それを五日間かけて泳いで掬いに行ったりする。
若布に足を取られ、そのまま五千年間眠り続けたりもする。
でも目を覚ませばそこには時間は存在しない。
揺らぎながら、闇の中に微睡んで、涙の粒を落とす夜もある。
全てが下らないと想う日もあれば、全てが素晴らしいと想う日もある。
四分の一は素晴らしく、四分の三は下らないと想う日もある。
その四分の三は、四分の一から離れ、別の個体となり、その四分の三のなかに、また四分の一の素晴らしいものと四分の三の下らないものとに分かれ、それを延々と、繰り返し続ける。
要はそれが面白いかつまらないか、美しいか美しくないのか、ということなのだが、最初に素晴らしいと想った四分の一を見ると、それは最早、まったくとるに足らないものとなっている。
なのでその四分の一を、リサイクルできないかと考える。
別のものに変えて、存在させる必要があると考える。
だがその最初の四分の一は、自分のことを素晴らしいと想い込んでいる為、リサイクルを嫌がる。
まずこの四分の一は、"別のもの"が、どう別なのかを理解する能力がない。
その為、漠然とこれを嫌がる。
自惚れた四分の一を、地上に投げ堕とし、やがてみずから地下に骨を休める。
自惚れをやめなかった為である。
大体の日に於いて、四分の一は地下で紅茶を飲んだり、パンを食べたりしてひっそりと暮らしている。 
退屈な日には、地上の人を捕らえ、生きたまま解体ショーを行うのだが、これをする時、決まって全員が気持ち悪さに嘔吐する。
解体ショーを終えた人間の死体は地下のレンダリングプラント工場でミンチ状にし、肥料にする。
その肥料で育つ巨大な赤い花が地上の海面から顔を出すとき、地上に終末が訪れる。
まずすべての屠殺場の柵が自壊し、家畜は逃げ惑う人間を捕らえて喰い殺し始める。
その様子を地上に上がってきた四分の一は、打ち眺めながら言う。
「これが、人間か。」
それに続いて、すべての地の獸が人を殺し始める。
人を殺した瞬間に天から降り注ぐ剣が獸の脳天に突き刺さり、地に串刺しとなって獸は絶死する。
すべての人間は飢え渇き、すべての人間を疫病が襲う。
人間が人間の脳を食べた罰として人間の脳に寄生した無数の虫が人間の脳を喰い荒らし始める。
地は人と獸の死体で覆われ、四分の一はそのすべてを地上のレンダリングプラント工場でミンチ状にし、丸めて肉団子を作り剥いだ皮でそれを包む。
そして蒸し器でこれを蒸し、まだ生きている飢え渇く者たちに食べさせる。
それを食べた人間と獸は飢えを満たされた瞬間、天から降り注ぐ剣によって地に串刺しとなる。
この繰り返しがイエスの誕生から2020年間、四分の一によって行われ続けたあと、エリヤが再臨すると預言されている。
四分の一の支配は、もうすぐ終りを迎えるのである。