こんにちは。
突然、御手紙を書いたりしてごめんなさい。
どうしてもEさんに御話ししたいことがありまして。
御話と言いますか、御願いですね。
あのですね、率直に申しますが、
結婚して貰えないでしょうか?
というのは、後にしましょう。
ええっと、何を言おうとしていたのか、ちょっと忘れましち。
いや、ふざけているわけじゃないんですよ。
真剣な手紙なのです。
だからどうか最後まで読んでください。
あのですね、つまり簡略して言うと、わたしのホームヘルパーの担当の方を、是非ともEさんにして戴きたいなと想うのです。
それは何故かと言うとですね、Eさんが超絶男前だから...って今自分で想いましたね?
絶対想ったでしょう。
いやーやっぱ俺は超絶な男前だから、こうして女性の顧客から人気が凄いなあー。
俺ってやっぱモテるよなー。
どうしよっかなー、こんなにモテちゃって、ほんと引っ張りだこなんですよー。
だから貴女の担当に入れなかったんですよー。
って今想いましたね?まあちょっとこの言い方は貴方のキャラではありませんね。
確かにEさんは、すっごくカッコいいですよ。
貴方の仰有られる通りです。
其所さ否定しません。
ええ、貴方は、確かにハンサムボーイです。
初めて出逢った日の、あの瞬間、わたしの胸はときめき、そして貴方がわたしの担当ではないと知った瞬間、腑抜けのようになったほどでさァ。
それを証拠に、あのスーパーで買い物に出掛けるという話になったとき、わたしは「遠いスーパーの方が、色んな種類のものがふってる。」と言ってしまいましたよね。
そして俺は言ったあとに、あ、俺って言っちゃいましたがわたしは歴とした女です。
たまに一人称がころころ変わるんでさァ。
話を戻しますね。
そしてわたしは言ったあとに、半笑いで「"ふってる"やなくて"売ってる"。」って言い直しましたよね。
あれが、わたしが腑抜けて、魂がどっか飛んでって帰ってこなかった瞬間の記録です。
わたしはそれほど、貴方がわたしの担当ではないのだと知ったことの絶望感に苛まれたということです。
此処でまたEさん、貴方はこう想いましたね?
やはりか、やはり僕が、本当にカッコいい男だからか。
だからこんなに僕は女性を悲しませて絶望の底に突き落とさせ、そして『売ってる』と言うべき、発言するべきところを『ふってる』と言わせてしまうほどなのか...!
貴方は今、自分がそれほどの美男子であるということに胸を熱くさせていることでしょうね。
でもわたしは違うのではないだろうかなと考察しています。
Eさんは確かに水も滴り落ちるイケメンッツだ。
こんなにイケメンッツなホームヘルパーさんは、世界中探してもいるはずはないだろう。
そして彼は、とても爽やかだ。
つまりとても、好青年だ。
こちらの気持ちを自然と明るくさせてくれる。
それは彼の雰囲気が夏の陽射しの下で揺れる舞茸みたいな存在だからだ。
何故、舞茸なのか。
自分でもよくわからないが、何故か君は舞茸ではないかな?と今感じたのである。
君は絶世の、空前絶後の、未曾有の舞茸だ。
だからぼくを、こんなにも感動させ続け、そして淫らな妄想をさせ続けるのだ。
どんな淫らな妄想なのか、貴方は気になっていますね?
良かろう。
御話致しましょうではありませんか。
わたしが先程、貴方を想ってどんな如何わしい妄想を脳内で繰り広げ、悶えてしまったか...!
君は悪だ。だってぼくにこんな罪深き妄想をさせる存在なのだものね。
死んでしまえ。
今すぐ死んでしまえ...!
なんて想ってないので御安心ください。
どんな破廉恥な妄想をしたのか、今から御話致しましょう。
貴方は、急遽、配属が変わるのです。
そう、貴方は、わたしのホームヘルパー担当に変わるのです!
そして...貴方はわたしの家に遣ってくる。
一丁の拳銃と、ナイフを懐に忍ばせて...!
これであの女を脅し、あの女に、あれを...させる...。
その為にぼくはあの女のホームヘルパーに配属になったのだ。
ぴんぽォン。
女のマンションのチャイムが鳴った。
女はときめいてインターホンに出る。
「はい。」
すると例の爽やかな声でEは返答する。
「こんにちは。○○の変わりに配属になりましたEです。詳しくは後でお話ししますので、取り敢えずロックを解除してください。」
女は喜んでオートロックを解除して「どうぞ~。」と御機嫌に言って部屋で待つ。
Eが階段を上がり、女の部屋のドアの前まで来るともう一度チャイムを鳴らす。
するとドアが開いて、女は笑顔で出迎える。
女は頻りに、「担当がEさんに変わってすごく嬉しい。」という趣旨の言葉をEに向かって微笑んで話す。
Eも笑顔で「僕も嬉しいです。」という趣旨の言葉を女に向かって応える。
女はあわよくば、このEと、恋人のような関係か、もしくは疑似恋愛的な関係になりたいと願っている。
だがEは、そんなことには全く興味はない。
だが、この二人は、今互いに猛烈に興奮している。
互いに顔を赤らめ、照れてはにかんで微笑み合って見つめ合っている。
「さて、」
Eがそう言って散らかった部屋を見渡し言った。
「では早速、始めましょうか。」
女は頷き、舞茸の舞を見物する。
Eはくるくるとその場で回転しながら舞茸の舞を踊り始める。
という展開にはならなかった。
何故か、それはEが、突如、アレを懐から出して女の顔面に突き付け、爽やかな笑みを浮かべたままこう言ったからだ。
「大人しくしてください。今から僕の言う通りにしてください。さもなくば貴女の顔面に綺麗な真っ赤な薔薇の花を咲かせます。良いですね?」
女は微笑んだまま顔をひきつらせ、脂汗を額からたらたらと滴ながら涙を瞼の縁に浮かべてこくりと頷く。
「では始めます。もう少し後ろに下がってください。」
女は振り返らずに震えた身体で後退りする。
そして足を物にぶつけて尻餅を着く。
Eは優しく手を差し伸べ、女はそれを掴んで身を起こす。
Eは女の手を、振り払うと右を見て、そちらに顎で指図して女に向かって言う。
「では、遣ってください。」
女はまず、袋のなかを覗いた。
「これ...何を棄てて何を置いておけばいいのか...」
「黙って遣ってください。今度話したら引き金を引きます。」
女は悲しい顔でEの顔を一瞥すると黙々と作業をし始めた。
Eがまた言う。
「制限時間は一時間。一時間が過ぎれば僕はこのまま帰ります。一時間が過ぎても何かを発声したらその瞬間に貴女はデッドエンドです。リスタートはありません。分かりましたね。」
女はまたも、物悲しい表情をEに向けて頷くと、またぞろ手を動かし、まずは、要るものと、要らないものに分けて袋に詰めていく。
そして30分がとこ過ぎた頃、女の目からは涙が零れ、その水滴が散らかった無数の物の上に何度と落ちる。
「もっと早く。もっと早く手を動かしてください。見ているとすごくイライラします。」
女は必死に命欲しさに自分の部屋の物を片付ける。
段々と、自棄っぱちな気持ちになってきて、もう殆どの物を、要らないものを入れる袋のなかに放り込んでゆく。
漸く、一時間が過ぎる。
外はもう真っ暗だ。
女は自分で片付けられたことに喜び、爽やかな笑みでEの顔を無言で見つめる。
Eは全身を震わせると、号泣しだし、嗚咽を堪えながら女に向かって言う。
「遣れば、遣れば出来るじゃないですかあ。貴女は本当は腐った廃人なんかじゃないんです。貴女は自分の命が惜しくて、こうして自分の力で自分が散らかした物を片付けられた。僕は貴女が自分の力で部屋を片付けようとしないなら、本当に貴女を殺してしまうつもりでした。その為に、この拳銃もアメリカからダークサイドで輸入したのです。これからも、この凶器を活用します。貴女がちょっとでも休もうとしたらすかさずこの銃口をあなたの口のなかに突っ込みます。毎週二日、僕は貴女の顔面に銃口とナイフを突き付けに来ます。此れが、僕のホームヘルパーの仕事だからです。僕は貴女の家を、貴女の部屋を、貴女の精神を、貴女の飼っているうさぎを、貴女の未来を、貴女の人生を、必ずヘルプします。一時間でたった二千円。僕はたった二千円ポッキリで、貴女をヘルプする。すべてに心から感謝してください。それではまた二日後に遣ってきます。それまでなんとか生き延びてください。さようなら。」
女はEが帰ったあと、ラム酒を原液のまま、シングルを5杯かそこら一気に飲み干すと、机に向かって座り、Eに向けて手紙を認めた。
そこには、こう書かれてあった。
「もし、わたしが、この先、生きた本当の屍となる日には、必ず、わたしを殺してください。それが貴方の、ホームヘルパーの最大の仕事です。貴方は必ずや、わたしを仕留め、そして焼却炉で燃やして灰にしてくれる。その灰こそ、貴方の本当の食べ物です。貴方の、真の利益です。」
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