ゆざえのDiery'sぶろぐ

想像の森。 表現の駅。 幻想の家。

2021年03月

五つの玉の精

わたしは牛頭天王を祀る神社へ赴いたあと、帰路に着き家のすぐ近くの岩板に座りてPokémon GOでシビシラスと真剣に闘っていた。
そしてシビシラスを捕まえて独りで喜んでいた。
その時である。俄かにわたしは声を掛けられた。
「図書館へはどちらの道を行けば良いですか?」
顔を上げると、そこには籠のついた古い自転車を引いた若い男が立っておった。
わたしは方角を指で差し示し、図書館までの道のりを男に教えた。
男は分かっているのか分かっていないのか分からない顔で礼を言った。
わたしはPokémon GOを再開する為にまた目を落とした。
すると男は自転車を止め、わたしの座る岩板の左に座った。
わたしが訝っていると男は「少し休憩をしようと想いまして。」と笑って言った。
わたしは男がわたしに何か求めていることを感じ取り、それが何であるかを知りたいと激しく想った。
男はわたしに何をしているのかと訊ねた。
わたしは自分が捕まえて育ててきた化け物を使いて血の戦いの末、このシビシラスというシラスのような化け物を捕まえたところだと答えた。
男は自分の道具の器が足りなかったから自分はそれをできなかったと応えた。
わたしは笑った。
わたしはこの男が気に入った。
わたしは男に本が好きなのかと訊ねると男は自分の借りていた本をわたしに見せた。
歴史の本とパレスチナ語(ウルドゥー語)を学ぶ本があり、わたしはパレスチナ語を学ぶ本を手に取って中を見ながら、わたしは今、日本とユダヤの関係についてずっと調べているのだと言った。
男は感心を示している様子でそれは面白そうだと言った。
わたしは牛を『バカラ(بقرة)』というのかと関心を示した。
わたしは最近、牛頭天王のことを調べていると男に言った。
これは『バアル』の名前と関係がありそうだ。とわたしが言うと男はバアル神のことかと言った。
わたしはバアル神を知っているこの男に深く関心を抱いた。
わたしは自分が如何に孤独で、毎日が苦しいことを簡潔に男に伝えた。
介護補助の仕事をしている男はわたしの背中を老婆の丸い背を撫でるように優しくさすり、わたしに深く哀れむさまを表した。
わたしはこの優しい男に自分はこの荷物を家に置いて来るから、一緒に図書館へ参らぬかと言った。
男は喜び、是非ともそうしようと言った。
男のかけている黒縁眼鏡の左のガラスにはとてつもなく濃い睫毛が三本付いておった。
わたしは男は眼鏡を最低一年は洗わない主義なのかと想った。
男は良ければお友達になって欲しいと言ってわたしに握手を求めた。
わたしは差し出した男の手を握り、頷いた。
男はわたしの手を冷たいと言い、あたためるように握った。
わたしが荷物を置きに家に上がっているとき、まるで拾ったばかりの仔犬を繋いでひとりぽっちにさせているような不安と哀しみを覚えた。
わたしが降りて静かに待っている男を見たとき、やはり拾われたばかりなのに棄てられるかもしれぬ深い不安と寂しさを胸の奥深くで溢れさせている仔犬のような顔でわたしを振り返ったのだった。
わたしはお前を棄てはしない。
お前がわたしを棄てる迄。
そうわたしは心の底で言わなかったが、男がこれを呪うように求めていた為、わたしの神に言わせた。
二人で並んで歩くとすぐに、男はわたしの手を繋いできた。
男はわたしより十の年下だった。
何の恥じらいなく甘えて来る男の行為にわたしは幼児が母親の手をひっしと繋ぎたがる切実さを感じて感動したが、同時につい先程に知り合ったばかりのこの男が母の愛をわたしに求めていることに心中で周章狼狽し、わたしは咎を背負うような気持ちになった。
わたしはこの男に対して、野山のねきの道で出逢った猿か狸の仔を連れているような気持ちで共に歩いていたからである。
わたしは咎められているこの想いを男になんと言えば良いかわからず、困惑しながら男と手を繋いで歩いた。
男の手はとてもあたたかく、厚くて柔らかく、優しかった。
わたしは五年間、男に触れられはしなかったが、わたしが守り通してきたこの操の期間を、男は容易く触れて壊してしまった。
それは何の意味もなく、全く無意味だった。
わたしには何の価値もないのだとわたしは感じた。
わたしの処女は、永遠に帰らぬのだと、神に告げられたような気持ちだった。
わたしは誰ひとり、愛することはなかった。
わたしが愛したのはただ一人、父と母の融合神、二心一体の存在であったからである。
だがわたしは絶望し、処女を喪った。
わたしには女としての希望も、人としての希望も最早在りはしなかった。
何度と、わたしの身体を気遣って座って話をする男にわたしは言った。
わたしは本当に"鬼"なのだが、それでも良いのか。
男は気にしないと言って微笑んだ。
その両の目は、五千年間埋められ続けた蒼い透明の火の玉のように、何かを言いたげであった。
わたしは男に言った。
わたしは幸せを求めていないのだ。
わたしは悲劇を愛しているのだよ。
わたしと添い遂げようとする者は、真に苦しみつづけるだろう。
男はわたしの両の手を両の手で握り締めて言った。
僕は貴女と幸せになりたい。
男は何遍も何遍も、しつこいこと極まりなく、同じ言葉を繰り返した。
僕が貴女を護りますから。
だから、大丈夫ですよ。
わたしはその都度、笑った。
男はマスクを外してわたしの右手の甲に幾度もキスをした。
男はそして謝った。
変わり者でごめんなさい。
そして枯れた蓮の花の浮かぶ湖を眺めながら言った。
今日から、僕は貴女の恋人です。
男は何度も用を足しに公衆の厠へ行った。
わたしが男の後ろ姿を見つめておると、男は携帯の画面を見下ろしていた。
わたしはそのことについて、訝り、男に訊ねた。
男は答えた。
Twitterを見ていたのです。
わたしは酷く不満な心地で口をマスクの下でひょっとこのように尖らせ不機嫌に言い捨てた。
ふーん。そんなに気になるアカウントがあるのか。
男は帰り道を変に急いだ。
男の要求にわたしが折れて、わたしの家に上げてやると言った後である。
男は言った。
家に着いたら、口に優しいキスをしてあげますからね。
わたしは男に言った。
なんで家に上げても良いと言った途端、そんな早足で歩き出すのか。
男は立ち止まって振り返ると、はにかんで笑って言った。
ごめんなさい。
わたしは不安になり、男に言った。
わたしは拷問にかけられて殺されたくはないから、やはり家には上げられない。
男は拷問とは何かと訊いた。
わたしは答えた。
拷問とは、堪えられない地獄の苦痛を生命に与えることである。
男は可笑しそうに笑って言った。
そんなことしませんよ。それに、人を殺めたらこれですわ。
男は自分の両手首を縄で縛られているジェスチャー、即ち「お縄になる」を表現し、笑った。
わたしは男の目をガン見した。
その男の両の目は、先程、公園で見た野生のヌートリアの微塵たりとも邪の無い何ひとつ穢れのない、ただ食べること、生きることしか考えてはいない磨いた黒曜石の球の如く目と全く同じ目であった。
わたしは、男をとうとう家に上げた。
男は、母親の乳首を欲して見つめるようにわたしの目と口を見つめたるあと、何度と吸い付くように口付けを行った。
しかしわたしは口を頑なに開けることはなく、性的な興奮と感情を覚えなかった。
恰も、可愛く懐く打ち棄てられていた仔犬を拾って家に連れ帰ったものの、その仔犬に獣臭の凄まじき舌で口を舐め回されるのは酷い不快感と嫌悪感を否むことはできない者の複雑な悲しみと哀れみの如し、わたしは男を本当の意味で愛することはできなかった。
どんなに激しく求めて舐めて吸おうが、一滴も乳の出ることのない乳首を見つめる乳飲み児のように、男は寂しそうな顔でわたしを心内で絶望するように見つめた。
男は、家に上がる前に言った言葉をもう一度言った。
時間が止まればいいのに。そうすればずっと貴女と一緒にいられます。
わたしは男に、セリアに売っている"3D ドラゴン"のドラゴン種をすべて集める為に、一緒にセリアに行ってくれないかと言った。
男は一緒に行くと約束した。
そしてわたしと指切りをし、男は言った。
どんなことがあっても、僕が貴女を護りますから。
そして男はわたしと繋いだ小指を離して切った。
男は、帰りが遅いと親が心配するからと言って帰った。
男が帰ったあと、わたしは『古代の宇宙人シリーズ』を観ながら赤ワインを飲み、夕食をとった。
男のことが気に掛かり、古代の宇宙人たちが、何処そこで、何をして、何を人類に教えたのかを熱く語られ続ける内容の何一つさっぱり頭に入って来なかった。
わたしは上の空で混乱し続けていた。
わたしは酔い潰れ、男に床に入りて休むとメールを送って眠りに就いた。
翌朝、少し吐き気と悪寒がし、身体が熱っぽかった。
体温計で熱を測ってみた。
二度とも36.7°であった。
わたしは彼を疑った。
彼は故意に、何かをわたしに移した(感染させた)のではないか。
わたしは寒気のなかに、男を恐れた。
わたしは男の顔も憶いだせなかった。
わたしの筋肉は腐り、足は日に日に痛み、腸と脳には蟲が湧いている。
その上、わたしに対する呪いはわたしに死に至らしむ感染病に罹らせたのか。
わたしは、己れと己れの神を、呪わんとした。
そのときである。わたしは憶いだした。
昨日わたしは牛頭天王を祀る神社にて自分の足をさすり、その手で牛頭(黒い牡牛像)の神の足をさすり、わたしの足をまたさすった。
その祈願のあとに、わたしは男に出会ったのだった。
わたしは瞬間、目を見開き、涙がとめどなく流れた。
おお、牛頭よ、我が愛する独り神よ。
あなたはあなたの右前脚の膝の器から、生まれた精霊(分け御霊)をわたしに与え賜われたのですか。
それなのにわたしは彼を三度疑った。
わたしは彼の真心を、信じなかった。
わたしは彼の約束を、疑った。
赦し給え。
わたしは男にメールを送った。
すると男から返事が返ってきた。
「熱はないですか?
少し前PCR受けましたが、陰性でしたよ。」
わたしはもう二度と、彼を疑わない。
もし、彼との子を授かる日には、その名を、「五竜也(ごずや)」と名付け、世の終わる日まで、この世で愛しんで育てることを、わたしはあなたに約束する。























浦島太郎


浦島太郎が、目を開けると、側に乙姫がいて、彼女は静かに言った。
今日から、あなたはわたしの夫であり、わたしはあなたの妻です。
浦島太郎は、乙姫と官能的な蜜月を竜宮城で三千年間過ごしたあと、最悪なものを目撃した。
浦島太郎は我が目と目を疑ったが、三度目に見た時には、もう良いや、と想った。
もう、終わりだ、お終いだ、お開きだ。と想った。
太郎は、激流の涙を流し終えたあと、乙姫に向かって言った。
乙姫は、長い黒髪を鏡の前で櫛で梳かしておった。
「乙姫どの」
乙姫は、愛らしいあどけない顔で振り向き、太郎のぎろぎろとした気色の悪いほどに燃えているような両の目を見つめて答えた。
「太郎さん。どないしはったのですかえ。具合でも悪いのかえ。顔色も悪いし。」
太郎は目をぎゅっと瞑ると黒い血を吐き出すように言った。
「わたしは見たのだ。」
「何を見たのですかえ。」
「そなたが…わたし以外の男と、契っているところをです。」
すると、乙姫は太郎と同じように青褪めた顔になり、ふたりで変な汗をたらたら流し合った。
乙姫は動悸のするなか言った。
「黙っていたことを、本当に申し訳なく想います。わたしはあなたを失いたくなかったので、これまでずっと言えなかったのでございます。あなたの星では、結婚や契りをたった一人の者とすることを決まりとして良いことだと考える人がほとんどであることはわたしは知っておりました。しかしこのわたしの星では、そうではありません。この星では人は何人でも愛せるのです。人は何人とでも結婚できて無限に愛する人と契ることができるのです。愛に制約は一切ありません。あなたの星に、愛に制約をつけることばかり好むことをわたしたちはとても不思議に感じています。わたしはあなた以前に夫が千人以上いますし三万人以上の人と契りました。」
浦島太郎は、実に黒雲が晴れたという顔をして言った。
「実家に帰らせて戴きます。」
乙姫は悲しんでしくしくと泣いた。
「何故泣くのですか。あなたにとって、わたしは特別に愛する存在ではないのに。千人以上いる夫のなかの一人にしか過ぎない。」
乙姫は涙声で言った。
「確かにだれもわたしにとって特別ではありません。わたしはすべての存在を同等に愛しているからです。あなたと結婚し、契りを交わしたのもあなたの遺伝子とわたしの遺伝子が相性が良いことをわたしの潜在記憶が知っていたからです。そうでなければ、あなたをこの星へ連れてくることなどしませんでした。」
浦島太郎はきょろきょろとして言った。
「わたしを乗せて来た亀は何処です?早く用意して来てください。今すぐに、即刻、家へ帰りたくなりました。」
その時であった。
地下の扉が開かれ、巨大な亀型宇宙船が地下からゆっくりと上がってきて、自動ドアが静かに開いた。
浦島太郎は振り向くことなく亀型宇宙船のなかに入り、ドアが閉まるのを待っていた。
だがなかなかドアは閉まる様子がなかった。
乙姫が、地下に降りて四角い金属でできた小箱を持って上がって来て、それを浦島太郎に手渡した。
「なんですか、この箱は。」
浦島太郎がそう訊ねると乙姫は哀しげな顔で言った。
「それはタマテバコという箱です。あなたの魂が入っている箱です。あなたはもともと三つの魂がありましたが、わたしの星に着いたときに一つの魂をこの箱のなかに閉じ込めねばなりませんでした。そうしなくてはこの次元にあなたは適応できなかったからです。」
浦島太郎は驚いたが、返して貰えたことにホッとして応えた。
「そうですか。それでなんだか、夢のなかにずっと暮らしているような心地がいつもしておったのですね。夢から覚めて、わたしは良かった。本当に良かった。これで家に帰ればすぐに箱を開けて、廃人のように生きて独りで死のうと想います。」
「いいえ、その箱は決して開けてはなりません。」
「なんでなのですか。開けたらわたしが発狂するからですか。わたしがショックのあまりに老いぼれるからですか。わたしが絶望のあまりに体内細胞のすべてが死滅するからですか。わたしのアホ過ぎる魂と対面してわたしは堪えきれずに死ぬるからですか。なんでなのですか。なんで開けたら駄目なのですか。」
乙姫は、言葉を探しているようだったが、瞬きを三度すると浦島太郎を見つめて言った。
「その箱のなかの魂は紛れもなく、あなたなのです。あなたはこの、三千年間、ずっと箱のなかに閉じ込められていたのです。そのあなたが、あなたを三千年間、呪い続けてきたからです。箱を開けたなら、呪いの封印は解け、あなたはみずからの呪いを受ける。あなたは最早、生きていることはできません。」
「では何故、これをわたしに持たせるのですか。」
「それはあなただからです。あなたのものであり、あなた自身だからです。もしあなたを此処に置いて帰ると言うならば、わたしはいつか箱を開けたくなるかもしれません。あなたはわたしの愛する夫だからです。」
浦島太郎は笑って言った。
「ははは、口が上手いな。あなたはそんなことを言って、わたしの呪いが怖いのでしょう。わたしの呪いは凄まじ過ぎて、あなたの呪術でも封印し続けることが難しいと想ったからでしょう。もういい。もう聴きたくない。早く故郷へ帰りたい。だれもいない海辺で酒とドラッグをキメて早く寝続けて早く死にたい。早く竜宮城から離れて、早くあなたのことを忘れたい。海月になって太陽に溶かされたい。もう何も考えたくない。わたしは終わった。今すぐにこの玉手箱を開けて自分の玉のすべてを封じ込めて鯛になって蛸と烏賊に迎えに来てもらって木筒を叩きたい。じぶんがなにをいってるのかもうわからない。酢を飲んで血を吐きたい。雷に打たれてところてんをケツから出産したい。ミニバケツを頭に被って瓢箪を腹に巻きたい。そして巻き簾を食べたい。ブリキ缶のささくれに肘を擦って血を流したい。水と泥で新しい常世の国を創りたい。乾燥素麺を一ミリ単位に切ってそれを砂浜に全く同じ間隔で綺麗に立てて並べたい。あなたと最後にキスしたい。そしてあなたと永遠に絶縁したい。」
そう言い終わると浦島太郎は涙を流しながら乙姫と口付けを交わし、玉手箱を右の小脇に抱えて亀型宇宙船に乗って地球に帰った。
はたして浦島太郎は、故郷へ無事に帰って来れた。
だれもいなかった。
なんの生命も、生きていなかった。
辺りは灰の山に囲まれ、灰の海と川が音もなく流れ、灰の地は、底がないように想われた。
それもそのはず、この星は、浦島太郎が発ったあと、五十万年がとこら過ぎていた。
だれもなにも、生きていない星に、浦島太郎は独りで帰って来た。
浦島太郎は、渇いた声で笑った。
「ははは。」
玉手箱の紐を解き、蓋を開けた。
そして、中を覗いた。
するとそこに、自分の顔が無限に映っていた。
中は鏡張りだった。
蓋の内側も鏡でできており、蓋を閉めると六面鏡が合わせ鏡となる。
浦島太郎は、すべての悲しみを封じるかのように深い深い息をそのなかに吐くと蓋を閉め、紐で硬く結び、目を閉じた。

夢のなかで、乙姫が哀しげに微笑んでじぶんに向かって言った。

「わたしはあなたをしか、愛せないのです。」





















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