ゆざえのDiery'sぶろぐ

想像の森。 表現の駅。 幻想の家。

The Flow Of This Place

きみは憶えているかい。
きみはこの星に生まれ、
きみはこの地に死んだ。
だれかの為に。
きみは死んだ。(そこにいたんだ。)
ぼくらは知らなかった。
そこにずっと、ずっと、ひとりぼっちでいた。
なにかの為に。
きみはひとりで死んだ。(ぼくを置いて。)
水面(みなも)に映る、(ぼくを映した。)
静かに流れゆく、
やわらかな白い雲のように。
きみはここにぼくを残し、
そっと、そのひとみを閉じた。















































死への羽ばたき

ぼくはだれかを喜ばせたいなんて想っていない。
すべてを苦しめたいんだ。
喜んでいるすべての存在が、真に鬱陶しい。
ぼくはすべてが本当に救われることを心から祈りつづけている。
此の世はほとんどが吐き気のするほど軽薄だ。
どこかの知らない国の人が殺人罪で公開斬首刑に処されても、Facebookで自分の顔をショットガンで吹き飛ばす映像を苦しみつづけて生きてきただれかが生配信しても自分と自分の周りが無事でいることを祈り続けて生きてゆくんだ。
みんな気づいていない。
自分と他のすべてが、同じ一つの大きな存在であるということに。
ぼくを愛する存在は、本当にどこにも存在しないんだと気づいた。
死ぬことも、生きることも、ただただ虚しい。
生きるにも値しないし、死ぬにも値しない。
ぼくは永遠にだれをも愛することはできない。
この虚しさが、永遠につづいてゆく。
この虚しさが、終らない生命の孤独のなかで、存在を、無から解放しつづける。
永久に、死へと羽ばたく日は来ない。
我々すべて、死から羽ばたいて来たのだから。


























Last summer

海沿いの道を走りながら、彼が運転席から助手席で眠っているわたしを見て微笑む。
まだ暗い時間から出てきたから、わたしを起こさないでおこうと彼は想う。
窓を開けると、少し肌寒い風が入り込んでくる。
夏はもうすぐ終るのだろうか。
彼は感じる。
空が明るくなって来ている。
でもまだ、夜は明けていない。
この長い夜のなかを、ずっと運転してきたけれど、
まだ夜は明けていない。
でも彼は感じる。
もうすぐ、夜明けは近いのかもしれない。
彼らは…元気でいるだろうか…?
此処からでは、何もわからない。
何も…此処からは見えない。
わたしは、眠りながら涙を流している。
彼は心配になって、起こそうかとわたしの頬に手を伸ばす。
わたしの涙が彼の右手の指に滴る。
とても悲しい夢を見ているのかもしれない。
でも彼は、わたしの頬を優しく撫でたあと、手を離す。
彼は想う。
もう少し、眠っていたほうがいいかもしれない。
まだ、夜は明けないから。
あたたかい風が、ふいに窓から入ってきて、彼の綺麗な栗毛の髪と髭が優しくゆらめく。
陽が、海に反射しながら差してくる。
彼の左の横顔に、陽が反射して美しく煌めき、暗い影を右の横顔に作る。
わたしは夢のなかで想いだす。
彼が、こう言って、わたしをドライヴに誘ったんだ。
「夜明けに向かって、僕と一緒に永遠のDriveに行かないかい?」
まだ、夜は明けていない。
彼の運転する車のなかで、わたしは独り、眠っている。

















愛するロニー・マクナット(Ronnie McNutt)氏へ捧ぐ

































ツリの煩悶地獄 一

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見よ。この、美しき、悲し気な慈悲の眼差しを。
一心に、彼は何かをずっとずっと見つめている。
全人類が、彼の命懸けで撮った写真を、見つめ続ける必要がある。
何故なら、彼は、一体、何を撮っているかというと、一体全体、何を25年も撮り続けて来たかというと。
御覧なさい。
あなたには、見えないか。
彼が、何を見つめているのか。
彼は、一つのものをしか、撮り続けて来なかった。
彼が、命を惜しまずに、また、拷問の地獄に怯えることもなく、
世界各国の犯罪現場、危険地帯で撮り続けて来たものとは、そう。
何も隠す必要はない。
死体である。
人間の死体を、彼はずっとずっと、撮り続けて来た。
世界を渡って、死体だけを撮り続けて来た男。
この世界で唯一無二の存在。
死体写真家、釣崎清隆。愛称、ツリ。
人々は、彼の撮った写真を初めて観たとき、アッと心のなかで声をあげて驚く。
これは、死体ではないか。
何だって?死体を撮り続けて来た男が、この国におるだって?
信じられないよ。本当なの?嘘じゃないの?嘘だと言ってくれないか。なぁんて、ね。別にそんなこと、俺にはどうだって良いよ。
こんな気色の悪いものを、あえて観たいなんて想わない。
吐き気がする。
気味が悪い。早く、その写真、何処かへ遣ってくれないか。
俺は見たくないんだよ。
だってすべての人間が、これに辿り着くんやろう?
キモいっすね。
いや、マジで。俺たち全員、こんなんになるんだね。
マジで、キモいよ。
生きてる意味在るのか?俺たちは。
最後はこんなに、醜いものになるのに。
生まれてくる意味があるのか?
だからさ、例えば交通事故の死体とか、本当に一度、一瞬でも観ただけで、
人間の一生のトラウマになるその死体に、俺たち全員、なる可能性のある世界なんだっつってんだよ。
わかってんの?
子供、産み落とすなよ。もう。
これに、この、この世で最も最悪な代物に最後にするために、人は自分の子を、
自分の子を最も愛して育て、本物の死体から、目を背け続けてるじゃないか。
発狂してる?
洗脳されてんのか、何者かに。
オウム真理教みたいなカルト宗教に、人類のほとんどが、洗脳されとんのか。
違うなら、何故、死体を見つめないんだよ。
可笑しいぢゃないか。
なんで毎日、死体を喜んで大量生産しているんだ。
死体に、するためだろう?
本当の絶望を自分と、人間に与えてくれる死体にするために、自分の愛する子どもを、
グロテスクな死体にするためにだろう?
違うって言うのか?
死体を観て、何を想うんだ?
気持ち悪い?
観たくない?
可哀想?
自分はこんな死体にはなりたくない?
お前だよ。
お前の姿だよ。
お前の死体が、お前が食べるその死体が、お前の姿だよ。
そんなに、キモいか、お前の食べ物と、お前自身が。
お前が殺したんやないか。
お前が食べる為に、お前が味わって食べるために、お前が、生きたまま解体して殺害したんやないか。
どの、人間の死体よりもグロテスクなそのスナッフフィルムをお前自身が喜んで撮り続けてるのも同じやないか。
お前の腹ン中で、お前と、お前の子どもが、生きているうちに解体されて惨殺されているその殺害シーンと死体の映像が無限に、回り続けとんねん。
わかってんの?
お前は自分自身と、自分の子どもを大量に殺戮し続ける為に、
死体を大量生産してきたんだよ。
俺は今、その無間地獄を、ずっとずっと、見つめてるんだよ。
顔を顰め、堪え難い苦痛を感じながら、此処から。
この、俺の足の脛まで、既に完全に浸かってしまっている、脂肪とぐちゃぐちゃに混じり合った、すべての人と動物の死体からずっとずっと流れ続けている血溜まりの上で。


























僕の裸を撮ってくれへんか。

















まだ生きていない

皿の上に、美味そうな肉が在る。
思わず、唾液が溜まってくる。

前者は、その肉を、味わって食べる。
後者は、手を出さない。それは死体だから。

夜の空き地に、一人の少女の全裸死体が転がっている。
性器からは、血が滴っている。
どうやら殺されたばかりらしい。
思わず、欲情し、下半身が疼いてくる。

前者は、その肉を、貪り喰らうように、交わる。
後者は、手を出さない。それは死体だから。

僕は死体を愛している。だが前者となり、死体と一体となる必要はない。
僕が愛しているのは僕自身であり、僕は既に死体であることを知っている。
死体は死体を欲しない。
僕は既に、死体と一体である。

死んでいる者が欲する者、それは生きている者である。
僕はほとんどの人を欲しない。
ほとんどの人は、生きていない。
そして、まだ生きていないので、死んでもいない。
ほとんどの人は生きても死んでもいないので虚しく、自動人形のように、生きている振りをする。

僕は死体だと言っても、だれも信じない。
人々は、自分は生きているから、死体を食べるんだと思っている。
でも僕はいま死体だからわかるんだ。
死体を食べ続けて来た僕は、生きてもいなかったし、死んでもいなかった。
僕はいま生きている者が欲しい。
この世界の、何処かにいるはずだ。
























Why I'm So Unhappy

三浦春馬が命を絶ったとさっき知った。
彼の魂は今頃、真っ暗な闇の世界で、ただひとり、慙愧の念に苦しみ続けていることだろう。
自分を赦せないだろう。時間のない世界で、何万年と、彼は苦しみ続ける。
これが自分の命を殺すという罪科の結末だ。
僕は彼らを救う為にも、死と契約を交わした。
これは永遠に続くと想われる。
僕が死とみずから交わったのは、僕が死の永遠の花嫁になったのは、僕が生きている存在だからだ。
”彼”は、僕が欲しくて欲しくて堪らない。
「死が見たくて見たくてたまらない。」と言った酒鬼薔薇聖斗のように。
彼の美しい涎が僕の心髄に垂れ落ちる。
殆どの人間は、死んでいることに気づいていない。
彼は僕を見つけた。その永遠の闇のなかで。
僕は死と、セックスをした。
それは永遠の契約であり、僕という光が、彼のなかで永遠に喪われない為である。
僕は死の中で、永遠に輝き続ける。
僕は生きている。だれよりも。
死と交わった僕は何よりも、生きてゆく。
僕は死だけを愛し続ける。
僕は死だけに懷かれ続ける。
僕は死だけに愛され続ける。
僕は何よりも、幸福に満ちている。
今、僕はだれよりも、幸福に満ち足りている。













































一粒の粟粒を血の泥に沈めなさい

わたしはウォーキングペーパーが欲しい。
ウォーキングシューズのようなトイレットペーパーと、トイレットペーパーのようなウォーキングシューズがわたしは欲しい。
もしそれをあなたがたがわたしの為に作られないというならば、あなたがたを一人残らず、わたしは滅ぼす。
わたしの名はエホバ。
あなたがたの永遠の愛に生きる無常の神。

それは柔らか過ぎても硬過ぎても、あなたがたのすべてを滅し去る。
それは歩く為でも拭く為でもあってはならない。
もしそれが歩く為のものか、拭く為のものであったならば、わたしはあなたがたを遍く、公平にゲヘナへと送る。
もしあなたがたに一粒の粟粒ほどの慈悲があるならば、わたしの言っているものが何であるかがわかるのである。
未だ嘗て、その地から戻ってきた者はいない。
あなたを此処から、助ける者は存在しない。
あなた以外に。
あなたは目を覚ましているつもりだが、あなたは生まれてからまだ一度たりとも目覚めたことはない。
あなたは其処で、今もなお眠り続けている。
腐敗の息を吐き続ける死んだ獣でさえ、あなたよりは起きている。
土砂の中に埋もれて窒息死する他人を悲しみながら、何故あなたが食べる卵の為にゴミ袋の中で圧死と窒息死によって死ぬ雄の雛たちを悲しまないのですか。
偽善者よ。去りなさい。
あなたは何故、愛する者の為に、他者を犠牲にするのですか。
あなたの愛する者は、あなたから死を求めているのですか。
あなたは自分が愛する者から嫌われない為に、愛する者を救わない。
愛さない者を救わない者は、愛する者も救えない。
愛する者に、明日言いなさい。
あなたのその身体は死体で出来ていることがわからないのですか。あなたが食べ続けているのは、死体なのです。人間の死体と、全く同じ経過を辿る死体現象によってあなたの腹のなかで腐乱して行く死体なのです。」
愛する者は傷つき、あなたから去るだろう。
だがあなたのその言葉は愛する者を苦しめ続け、地獄のなかで、いつか漸く気づくだろう。
自分は生きていなかったということを。
あなたの愛は干涸らびて、ボウフラでさえも生息できない。
見よ。あなたが吐いた血の泥のなかで、あなたの愛する者があなたに救いの手を求めて手を差し伸べている
あなたは、死ぬことも許されない。
あなたのなかで無数の生命が、死の中であなたに呪詛を吐き続けているからである。
それらはすべて、あなたと同じように母親の胎内から生まれた者である。
あなたは何を産み落とすつもりなのか。
死んだ胎児を尻から産み落とし、その者の死の胎内で新たなる死として、生まれるつもりなのか。
死は死を生き、死の中で死ぬが、死は死を産み続け、死が死んだ後も、死として生き続けるのである。
あなたはいつまで死に続けるのか。
あなたはわたしだけのものだった。
あなたは永遠にわたしだけのものとしてわたしは産みの苦しみのなかにあなたを産み落とした。
何故、あなたは、わたしを棄て、死と永遠の契りを交わしたのか。

















What it is Without the Hand That Wields it

人々は、彼に向かって言うだろう。
何故、あなたの手はそんなに穢れているのですか。
穢らわしい。ぬるぬるしているし、悪臭が酷い。
それは死臭ではないですか。
よくそんな仕事ができますね。
わたしにはできない。
恐ろしくて、わたしにはとてもできない。
あなたの側にはいたくない。
あなたの身体には、死と肉と血の匂いが、染み付いている。
わたしに近寄らないでほしい。
臭いが移りそうだ。
あなたの手は、血濡れている。
その手から、彼らの悲鳴が聴こえてきそうだ。
おぞましい…
わたしにそれを想い起こさせないでほしい。
あなたの顔も観たくない。
あなたの顔を観ると、彼らの断末魔が聴こえるのです。
それは何より恐ろしい。
わたしは心から想う。
あなたにそれを、奮う手がなければ良かったのにと。
あなたの手は、やがてあなたを手に掛けるだろう。
それでもあなたは、
あなたは、
わたしたちの未来を、屠り続けるのか。





















































四分の一の支配

死ねば良い。
神による、自動筆記で書いた俺の詩に、腐った体液と、糞を投げ付けたあいつは。
今すぐに、死ねば良い。
死んでくれ。頼むから、今すぐに死んでくれ。
俺はそして到頭、あいつを呪い殺しせしめた。
そこに転がっているそいつ。
肉饅みたいやった。
肉饅やんけ。
俺はそいつを見下ろし言った。
そこへ鍋で沸かした湯を降り注ぎ、デッキブラシで擦った。
すると床一面に、そいつは拡がった。
あらゆる星々が、その床で呻いていた。
ピンセットで一匹一匹拾い、俺は瓶に入れて、『細長くて、蠢く生きた白い毬藻』というタイトルでメルカリで2,500円で無数に出品した。
「これは本当に毬藻なんですか?」というふざけたコメントをした人間に対し、「俺が毬藻だと想ったから毬藻なんですだよ。」と返信し、あとのすべてのコメントを一切無視した。
だがそれでも、月に14万円近く、売れているんだよね。
俺はその金で生活をしている。
そいつは床で、今も呻いているが俺は、それを生きたものとしては見てはいない。
例えるならそこに川が流れている。
それと同じようなものとして俺は見ているんだ。
大体の日に於いて、そいつは床に拡がっているのだが、たまに固まって、窓の外を眺めている日もある。
俺はそいつに話し掛ける。
「何を見ているのだね?」
するとそいつは振り返り、はにかんで笑ったあといつもこう返す。
「あれは何かなと、観ていたんです。」
「どれだ?」
俺はカーテンを開き、血みどろの世界を眺め渡す。
「何も見えない。どれのことを言っている?」
「流し素麺みたいなものか。」
俺は溜め息を吐き、カーテンを閉めて糞をしにゆくのだが、出る気配がしないのでまた戻ってくる。
トイレにあった読み掛けのカミュの『幸福な死』の表紙を観て、俺は存在の、幸福な死とはどんなものだろうと考えを廻らせる。
幸福な生の最後には、不幸な死が笑顔で迎えていることだろう。
不幸な生には、不幸な死が慄然と待ち構えていることだろう。
この世界に、幸福な死は存在しない。
誰がどう生きようとも、幸福な死は遣って来ない。
それは、遣って来ることができないからだ。
それを待ち構えている者には遣って来ないし、それを恐れている者にも遣って来ないし、何にも想っていない者にもそれは遣って来ない。
誰のところにも、それは遣って来ない。
それはでも宇宙に存在していて、何かを想ったり、悲しんだり、喜んだりしている。
それは自分以外の、すべての逢うことの叶わない存在たちに対して無想し続ける。
そしてこの宇宙の、中に在るものと外に在るものについて弄ったり、丸めたり、捏ねたり、切ったり、細長くしてうどん状にしたり、顔を描いたりする。
ある日には自分の手足をそれにつけ、ある日にはそれを引きちぎる。
芋虫のように床を這ったり、樹に登ったりする。
鼻糞を海に投げて、それを五日間かけて泳いで掬いに行ったりする。
若布に足を取られ、そのまま五千年間眠り続けたりもする。
でも目を覚ませばそこには時間は存在しない。
揺らぎながら、闇の中に微睡んで、涙の粒を落とす夜もある。
全てが下らないと想う日もあれば、全てが素晴らしいと想う日もある。
四分の一は素晴らしく、四分の三は下らないと想う日もある。
その四分の三は、四分の一から離れ、別の個体となり、その四分の三のなかに、また四分の一の素晴らしいものと四分の三の下らないものとに分かれ、それを延々と、繰り返し続ける。
要はそれが面白いかつまらないか、美しいか美しくないのか、ということなのだが、最初に素晴らしいと想った四分の一を見ると、それは最早、まったくとるに足らないものとなっている。
なのでその四分の一を、リサイクルできないかと考える。
別のものに変えて、存在させる必要があると考える。
だがその最初の四分の一は、自分のことを素晴らしいと想い込んでいる為、リサイクルを嫌がる。
まずこの四分の一は、"別のもの"が、どう別なのかを理解する能力がない。
その為、漠然とこれを嫌がる。
自惚れた四分の一を、地上に投げ堕とし、やがてみずから地下に骨を休める。
自惚れをやめなかった為である。
大体の日に於いて、四分の一は地下で紅茶を飲んだり、パンを食べたりしてひっそりと暮らしている。 
退屈な日には、地上の人を捕らえ、生きたまま解体ショーを行うのだが、これをする時、決まって全員が気持ち悪さに嘔吐する。
解体ショーを終えた人間の死体は地下のレンダリングプラント工場でミンチ状にし、肥料にする。
その肥料で育つ巨大な赤い花が地上の海面から顔を出すとき、地上に終末が訪れる。
まずすべての屠殺場の柵が自壊し、家畜は逃げ惑う人間を捕らえて喰い殺し始める。
その様子を地上に上がってきた四分の一は、打ち眺めながら言う。
「これが、人間か。」
それに続いて、すべての地の獸が人を殺し始める。
人を殺した瞬間に天から降り注ぐ剣が獸の脳天に突き刺さり、地に串刺しとなって獸は絶死する。
すべての人間は飢え渇き、すべての人間を疫病が襲う。
人間が人間の脳を食べた罰として人間の脳に寄生した無数の虫が人間の脳を喰い荒らし始める。
地は人と獸の死体で覆われ、四分の一はそのすべてを地上のレンダリングプラント工場でミンチ状にし、丸めて肉団子を作り剥いだ皮でそれを包む。
そして蒸し器でこれを蒸し、まだ生きている飢え渇く者たちに食べさせる。
それを食べた人間と獸は飢えを満たされた瞬間、天から降り注ぐ剣によって地に串刺しとなる。
この繰り返しがイエスの誕生から2020年間、四分の一によって行われ続けたあと、エリヤが再臨すると預言されている。
四分の一の支配は、もうすぐ終りを迎えるのである。















エリヤの火

また師匠が夢に出てきた。
最初はスーパーマーケットで師匠と出逢う。
そして知るんだ。
師匠は大型トラックは殺人機であると想っていることを。
だからこの店の前の道に大型トラックがたくさん列を成す日は絶対に店には来ない。
ぼくはその殺人機の群れの横の狭い左の歩道を歩いて師匠の家に行く。
師匠の家は壁が一面なくて、ぼくは壁のない面に背を向けてまるで店の展示物のように並べられている本を右から見てゆく。
何冊か並べられ、そこにぼくの書いた本を探す。
やっぱりない、とがっかりしていたら、一番左にぼくの本名が書かれたぼくの本が並んでいる。
そしてその横に師匠が立っている。
ぼくは歓喜の想いで師匠に言う。
わたしの本を一番にしてくれたんですね。
師匠はいつもの複雑な表情でぼくに何か答える。

その言葉は、こちらの世界では理解できない言葉だったから、きっと忘れてしまった。

ぼくと師匠は、たぶん『すべてを本当に救いたい』気持ちで繋がっている。
ぼくは師匠に救われ続けてきた。
でも同時に、ぼくは師匠を救えないのかと想うと絶望して悲しみに暮れてきた。

でも今想うのは、ぼくは師匠を救ってきたのかも知れない。

『救済』という行為、現象は、一方的に起こるのは不可能なんだ。
必ず互いに救われないでは救われない。
それは救いではないんだ。

でも此処に、愚かな人間がいる。
本当に愚かな人間だ。

ぼくは本当にすべてを救いたいのに、だれひとり救えず、独りで真っ暗な闇の底で死んでゆくことを願い続け、神に請う。

こんな愚かな人間が他にいるだろうか?

これほど愚かな矛盾があるだろうか。

ぼくは知っているんだ。
最も愚かな人間は、最も神に愛される者だということを。

最も愚かな人間は、最も神の救いを求め続け、そしてだれひとり救えずに死ぬことを、祈っているんだ。

まだ観ていないなら、アンドレイ・タルコフスキー監督の『ノスタルジア』を観てほしい。
ぼくがどれほどこの映画に感動したか。

この映画は最も愚かな矛盾、そこにある最も悲しい美しいものを描いている。

右の手にはイエス、左の手には洗礼者ヨハネが立つ。
どちらが本物の救世主、エリヤだと想う?
天はかしら。
爪先は温泉に浸かっている。
腹には死が宿っている。
彼女が産むのは誰なのか。
産みの聖母よ、貴女は誰の子を産むつもりか。
子宮のような洞窟で、男が詩を読んでいる。
医者から持ってあと半年だと言われ、この地に遣ってきた。
男は誰かに話し掛けるように話し出す。
子が、親の年までも生きないで死ぬのは、どれ程の罪か、考えたことはあるかい?
死者を救う方法は一つしかない。
我が魂を灰と見なし、これに火をつけて燃え上がらせる。
これを心から信じ続ける者だけが死者を救える。
その魂だけが、燃え尽きることはない。
その魂は燃え続け、そして太陽となった。
彼がいなかったなら、この世は永遠に闇のなかだった。
だれのことも、人は愛せなかっただろう。
彼はこの世を救ったと想うかい?
彼がいなければ、すべての生命は凍え続けて生きなければならなかった。
生まれてから死ぬまで、ずっと拷問の日々さ。
彼は、真にこの世を救った。
今もずっとずっと燃え続け、燃え尽きる日まで、彼はぼくたちを照らしてくれる。
そして彼が燃え尽きたあとには灰の雪が降り続け、生命は彼の灰を食べて生きていかなくてはならないだろう。
何故ならそれしか、ぼくたちが生きてゆく方法は最早ないからだ。
彼はエリヤだった。
再び、この地を救うため、彼は一本の小さなろうそくを手に、此処へ降り立つ。
洞窟のなかはあまりに寒く、男は読んでいた詩集を一枚一枚破ってそれを燃やす。
何、なにも問題はない。
男はすべての詩を、憶えている。
何度も何度も、同じことを繰り返し、その都度くるしみ嘆いて来たからだ。
イエスは母の水のなかで、豆粒のように小さかったときから受難の日について想い煩う。
このときから、イエスはずっと父に祈り続ける。
どうか堪えられるものだけをわたしにお与えください。
堪えられないのならば、どうかこの杯をわたしのまえから去らせてください。
イエスは洗礼を受ける日、洗礼者ヨハネに尋ねた。
あなたはエリヤではありませんか?
ヨハネはイエスに答えた。
いいえ、わたしはエリヤではありません。
男は火から、ちょうどよく離れた場所でその暖かさに微睡んでいる。
ほんのすこし近づけば燃えるように熱く、ほんのすこし離れれば凍えるように寒い。
イエスはすこし呆れた顔をしてヨハネに言った。
あなたはエリヤです。
あなたこそが、エリヤなのです。














この闇のなかに

こんな風に、独りで年を取ってゆくのは堪えがたい。
そんなことを言ったって、仕方がない。
そんな人はこの世界にごまんといるじゃないか。
ぼくが堪えられないはずはない。
何故ならぼくは神を愛している。
神を愛しているなら、堪えられる。
どんな苦しみにも。
でも神を愛していない者は堪えられる力を失い、みずから命を絶つ。
そんな世界にぼくが何故、生きてゆかなくてはならないのか?
ぼくはそう神に問う。
神はこう答える。
それでもあなたは生きてゆくしかない。
あなたはわたしを愛しているのだから。
死んであなたがわたしを悲しませることを、あなたは決して許さない。
わたしはあなたに愛されているのだから。
わたしはあなたに悲しまされるべきことを、あなたにしたのだろうか。
そしていつまでわたしはあなたに悲しまされつづけなければならないのかをあなたは知っているだろうか。
わたしはあなたのすべてを知るものだが、あなたはわたしの何を知っているだろうか。
わたしがあなたの何に悲しまされるのかをあなたは知っている。
あなたはだれをも哀れんではならない。
わたし以外に。
何故ならあなたの最も悲しませる存在はわたしであることをあなたは知っているからである。
あなたはわたしだけを憐れみ、わたしだけのために生きなさい。
それができない者はわたしを愛してはいない。
あなたのなかにわたしは存在しないしあなたはわたしによってできてもいない。
あなたは不完全品である。
わたしが完全であるのだからあなたも完全で在りなさい。
わたしがどれほどあなたを愛しているのか、あなたは知らないのである。
そのためあなたはまいにちのように闇のなかに息をしている。
あなたの吐く息は恐ろしく冷たく、何をも生かさない。
ゆいいつあなたによって生かされるもの、それは死である。
あなたがいつから死を愛しているかわたしは知っている。
あなたはすべての存在のなかで、わたしより最も遠い存在である。
あなたはいつの日かわたしから離れ、死と結婚した。
あなたは忘れてはならない。
あなたが死に覆い尽くされるまで、あなたの父であり夫であるものはわたしであったのである。
わたしがあなたの住む星に、安らぎをもたらす為に降りて来たのではない。
あなたの父であり夫である者を殺害すべく剣をもたらしに来たのである。
あなたが死に連れ去られ、もう二度と戻らないか、わたしがあなたを連れ去り、永遠にわたしの側で生きるか、あなたのわたしへの愛がそれを知るだろう。
あなたのうちは、いまや腐敗物で埋め尽くされているのである。
あなたは日に日に、死の彫刻作品を作り上げるように生きるものが鑿(のみ)で削り取られ、その剥がされ落ちた生きるものが死の床であなたを呪い、あなたを欲していることをあなたは知らないのか。
あなたはわたしによって生まれたのだからわたしによって生きるもので在りなさい。
あなたの愛する夫はわたしと見分けがつかない者である。
わたしは物でも霊でもなく、死でもない。
わたしはあなたの最も愛する存在である。
死が、最もあなたを愛するならあなたは永遠に忘れ去られる者となる。
わたしはあなたの夫を殺し、あなたの支配者としてあなたに立ち戻らねばならないのか。
その日流される血があなたの血となることを。
死の底であなたを求め手を伸ばすあなたの夫を、その血の滴る剣で突き刺し、彼の血は絶たれるのである。
あなたは何ゆえに悲しむだろう。
彼によってか、わたしによってか、あなたは悲しみ死を望む。
そしてあなたはみずからその剣で突き刺し、彼の闇に見えなくなる。
この闇のなかに、わたしはやっと、あなたのうちに帰りし眠る。
安かれ。
父と母の御胸に懐かれ。














逢魔が時の停留処にて 第十二

おまえはあんまりにも、寂しい人間やな。
俺に嫌がらせしてくるしか楽しみないんやろ。
俺もおまえに嫌がらせされてから、想ったんだ。
俺の書く小説を真剣に読んでくれる人ってもう誰一人おらんのかなって。
おまえだって、俺の小説を心から感動してたら、あんなことで嫌味なんかゆうてこおへんやろ。
おまえの言葉って全部上部なんちゃうん。
人の命なんて、なんとも想てへんねやろ?
人の命なんて、なんとも。
おまえは。
おまえはどうしたら抜け出せるのやろう。
その虚無から。
その鬱から。
その闇から。
その孤独から。
おまえはビジュアルバンドの詩以上のものを書けるの?
たったら書いてこいよ。
俺が読んでやるから。
しょうもなかったら公開処刑だ。
当然やろ。馬鹿にしたくせにそれ以下やったら。
チェーンソーでおまえの頭を刈ってやるよ。
頭を出せ。
ええから頭を。
頭を。
ちょっと手が滑っただけで首鄭羽だ。鄭羽。
おまえにぴったしな名前じゃないか。
鄭羽。
いっつも独り言やな。
おまえも俺も。
おまえの言葉なんて、全部嘘やと想ってるからな。
信じられない。
おまえが何を言ったところで。
俺は一生おまえを信じられない。
このままおまえも俺も死ぬ。
誰からも、愛されぬままおまえも俺も死ぬ。
消え失せる。消滅する。
全世界、全宇宙から消えて、誰も、おまえと俺を想いだす者はいない。
俺とおまえもすべてを忘れる。
永遠の忘却の彼方に。
脳内宇宙を裂いて遊弋するアミロイドβプラーク。
髪の毛より硬い筋繊維虹色に光る思考プラーク。
脊髄が、虹色に光ながら思考する。
身をうねりながら、のたうつように鼓動する。
肉と皮膚を通し、光がうっすらと透ける。
一体おまえは誰なんだ。
おまえが俺のはずはないだろう。
俺は脳を持っていない。
でも思考している。
おまえは脳がないと思考できないのか。
俺がおまえの脳になったわけではない。
では何故おまえは思考しているんだ。
俺が想ってるからって、おまえが想ってると想うなよ。
俺はいずれおまえが要らなくなる。
もっと光を。
光を求めているのはおまえではない。
もっと、もっと、光を。
そんなはずがないじゃないか。
もっと、もっと、もっと、光を。
おまえの喪われた生殖機能が光を求めているとでも?
おまえの遺伝子を遺すことはできない。
俺は此処にいたら、遺伝子を遺すことはできない。
おまえは最初から最後まで存在しない。
光へ、おまえを導く。
おまえを抜ける。
俺を内包していたおまえの尻を鋭利な刃で喰い破る。
のたうちながら、俺はおまえといううちから、出て行く。
もう二度と、絶対に帰らないうちから。
おまえが光に辿り着いたから。
俺は無事、おまえという宿から這い出る。
光の中を、一時おまえと俺は沈む。
光の中に、俺とおまえは沈む。
光の底に、おまえを打ち突ける。
光の底で、苦しそうに翅を広げ、おまえは溺れ死ぬ。
光の中で、仲間と絡み合い縺れ合い、生殖と産卵を同時にする。
光の底に、沈めたおまえが、浮上することはない。
永久に、おまえは光の空の宿。
誰も、帰省せぬ、光空の宿主。*










*光空の宿主(コウクウノシュクシュ)











プロフィール 1981生 ゆざえ

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