ゆざえのDiery'sぶろぐ

想像の森。 表現の駅。 幻想の家。

随想

師匠の夢

真夜中に目ェ醒めたんですわ。それで、あっ。と想たんです。
せや、京都の爪切ったらな。

で、起きて、京都ー、京都ー、っつって呼んであいつ探したんです。
そしたらそこにおって、「なに?」みたいな顔で俺のこと見上げてたんですよね。
なんや京都、そこにおったんかいな、ほなさっそくちゅて、京都、膝に載せて爪切っとったんですわ。
すると、こんな真夜中に、まさかの、電話が鳴りよった。
びっくぅ、しましてね、え?え?なに?なに?なに?なんでこんな時間に?って不安が極限に達した瞬間に、俺は受話器を取った。
「はい、町田です。」
すると向こうから、なんや吃驚したような声でこう聞こえた。
「あっ、町田さんですか!ぼく、京都の〇〇〇〇っていうライヴハウス、町田さんも来てくださったことのありますそこに努めてるスタッフの者なのですが…いやほんまに申し訳ないです、こんな時間に。実はぁ、あの、あっ、やっぱ、いいですわ、ははは、ほんますんません。ほな…」
ゆうて電話切ろうとしたんですよ、相手、それで慌てて俺は「いやいやいやいや、なんやねん、言いかけて、気色悪いなあんた。言いかけたことはちゃんと最後まで責任持って命懸けてゆうてくださいよ。気色悪いにも程があるからね。」ってゆうたんです。
すると彼奴、電話の向こうでへこへこ頭下げながらってまあ見えてるわけやなかったけろも、そんな感じでこないゆうたんですわ。
「ほんまにすんません。ほんまにすんません町田さん…。実はそのあの、さっき、ついさっき起きたことなんですけれども…」
俺はコードレス電話機を耳に当てて階段を下りながら一階のキッチンで茶ァ沸かしたろ想いながら言った。
「うん、それで?何が起きたん?」
相手はちょっとまァ置いた後に、ごくんと生唾飲み込んで答えた。
「はい、それがぁ…実は、さっきまで、町田さんの歌い声がこのライヴハウス内に響き渡っていたんですよ。それはほんま、その場所から聴こえて来たんです。観客の見つめるそのステージ上からです。それで、ぼくらはもうすぐにわかったんですよ。あっ、この声と歌い方は、町田町蔵やん!!!彼以外に、到底おらんということみんな知ってたんです。みんなすぐにそれに気づいた。それで観客たちと一緒に、”来てるんや!ここに町蔵、今来てるんや!”って叫んで騒いどったんです。みんなで感涙しながらそれを聴いていた。でも、ふと、気づくと、もうなんも聴こえなかったんです。それで、みんなでアンコール!って叫びながら町蔵の声を待って居た。でもいなかった。もう此処に町蔵いないんや。そう思て、泣いてたんです、ぼくら。それで、ほんまに、町蔵だったのならば、町蔵が知らんはずはないと、そう思たんです。それで、震える気持ちで、お電話致したという次第でござるのでございます。」
俺は、薄暗いキッチンに独り立って緑茶を煎じながら、それを聴いていた。
俺は、ぷるぷる、していた。気持ちと身体が、共鳴してぷるぷると小刻みに震えながら、「なんや、それ、なんや、それ、なんかそれって、凄いやんけ。」と我が脳髄の真ん中で叫んでいた。
で、ふと我に返り、俺は素朴な疑問を電話の向こうにいる相手に投げかけた。
「いやなんで観客たちがこんな時間におるのん?」
すると、その瞬間、“ガチャっ”っつって電話が切れた。
おいーおいーおいーなんなんだよ、なんなんだよ、気色悪いことこの上ない感じやなこれ、また掛かってくる?掛かってはこない?どっちやろう。とにかく掛かってくるのを待とう。
そう想て俺は茶ァを吞みながら、また二階へ行って、京都とじゃれ合いながら電話を待った。
しかし、うんともすんとも、雲とも臼とも、電話はその後、云わなかった。
俺は全身がぞわぞわするなかにも、同時に感動しているということに、寒気のなかにときめいていた。
それで気づけばぽそっと俺の口からこう漏れた。
「そんなことって、あるのね。あるのだわ。きっとそうよ。此の世ではそんなことがときにあるのだわ。起こり得るのよね。けつして、可笑しいことやないんやわ。」
それでおもろいのは、実際に京都というこの猫の爪を切っていた間に、それが京都のライヴハウスで起こったということだった。
これは関係があると考えても良いであろう。そう想わんかえ、なあ京都。俺はそう京都に向かって言った。
するとあれ?と俺は想いだした。そういや、俺、“京都”なんていう猫、知らんで、そんな名前の猫を俺は飼ったことがないぞ。一体、これは、どういうことなんだ。どーいうことなのだ。
俺は、京都を見た。見つめようとした。だが、そこに、京都はいなかった。
何がいたか?ただそこには、赤いカーペットが、あるばかりだった。
とどのつまり、京都という猫は、最初からいなかった。なのに俺は、何故か京都という名の猫を飼っていると信じており、その信念のもとに、彼の爪を切っていたのだ。つい先だってのことだ。
しかし、本来、俺はそんな猫は知らんのだ。では何処から京都という猫は遣ってきたのだ?
というか、この世界は、現実なのだろうか?何か知らないが、俺はこないな家に住んでいたことはあっただろうか?っていうか、俺はどんな家に住んでたっけ?
そうだ、想いだしたぞ。此処は、夢の世界なんだ。それは俺ではなく、俺以外のだれかが、何者かが見ている夢の世なんだ。
そしてその夢を今見ているのは、俺の何度か会ったことのある女だ。
そうだ、彼女だ。俺を「たったひとりの生涯の師匠」と崇める、あのいと風変わりな女。
彼女だ、彼女が、まったく可笑しな俺の夢を、今、見ていて、俺はもう目覚めてるというのに、彼女は目覚めようとはしないのだ。
ということは、俺はまだ、彼女の夢のなかに拘束される形で存在しなければならないのか?
いや、そんなことは可笑しいだろう。
というか、それ以前に俺は俺なのだろうか?彼女の夢のなかに今いる俺は本当の俺なのだろうか?
本当の俺とはなんだろうか?本当の俺とはたったひとりだけSONZAIsiteirunodarouka。
ってなんで急にローマ字になったのだろうか?やはり本当の俺やないからなのか?本当の俺やった場合、急にローマ字で語る俺になったりするのたろうか。
それで実のところ、これは彼女が夢と現の間に空想していた物語だったというわけなのだと、俺は今、想っている。
つまり微妙なその中間にある世界であって、何が起きるか、自由なのだ。
それは彼女の操る上での自由だと言えるか?
俺は自由なのだ。
何故そう言えるのかというと、彼女がそれを願っていることを俺はわかっているからなのだ。
此処は確かに彼女の夢(空想)の世界だが、俺は此の世界で真に自由な存在として存在している。
何故そう想えるのかというと、俺がそれを願っていることを彼女は知っているからなのだ。
だからもう、良いではないか。
それはつまり、俺だって彼女を操れるということなのだ。
俺は今、こうして彼女を操り、この物語を書かせているのだから。



















町田町蔵+北澤組 - パワートゥーザピープル


























存在していない世界

こともあろうことか。わたしは牛頭天王を祀る神社の帰りに、家のすぐ近くで歳が十も下の男に声を掛けられ、男の要求を断り切れず、家に上げた途端に激しく接吻をされ、男は翌日に自分は発達障害であることをわたしに告白したのだった。
これがつい、五日前の話である。
今年の八月でわたしは四十歳、人生初めての難破であった。
最初に出会った日にはわたしは男に恋愛感情を抱かなかったが、三日前に会った日には男を恋しく想い、この男と生涯連れ添いたいと願ったのだった。
男は最初の日も次に会った日も、履いているグレーのチノパンの丁度陰茎のある辺りにカレーを零した痕が付いていた。
わたしはそれを指摘した。
男は次は洗って来ると言った。
わたしは二日前から、吐き気が治らず、一日中身体は熱っぽい。
男と会っているあいだは、そんな症状は起きなかった。
次の休みに、男はわたしと会う約束をしてくれなかった。
だからわたしは男に別れを告げた。
今日も、悲しくて何度と涙が流れた。
男はあの後、わたしに何かをインターネットという通信術によって言ってきただろうか。
わたしはそれを知らない。
男からの連絡のすべてを遮断したからである。
わたしは自分の人格、性質、欠点、問題点などをできるだけ男に教えたつもりでいたが、男は何も理解できていなかったのだろうか。
男は今までに交際してきた女のすべては優しかったと言った。
一方、わたしは今までに交際してきた男のすべてを殺しかけた。
精神が、真に死ぬる処まで追い詰めてきた。
魂も、じゃりじゃりに成って、ぷるぷるに成り、果てはすらすらに成るくらいまで、男を攻めに責め、咎めてきた。
そう、わたしと交際した男のすべてが真の地獄へと突き落とされた。
その地獄は、わたしが男をすっかりと忘却の果てに押しやった後にも永久に続いた。
最初に交際した男に、わたしはこう言われたことがある。
「君は鬼のように暗い。」
まだ二十二歳の頃だった。
わたしは己れを人間より鬼に近く、実際に鬼なのではないかと想うことがよくあった。
人間共と暮らしていること自体が、間違っているのだろう。
わたしは人里離れた山奥の、だれも辿り着かぬ谷底の、暗くて冷たい洞窟のなかに暮らすべき存在なのだと、わたしは自分の鏡から、言われた。
だから、わたしは独り、家を後にし、山のなかを歩いていた。
もうすぐ、日が暮れそうだった。
食べるものもなにも持って来なかった。
腹がしつこいほど鳴り、喉も渇いて脱水状態にあった。
それでもわたしは洞窟を探して、わたしの永遠に骨をうずめる場所を求めて歩いていた。
ふと、自分の枯葉や朽木を踏む音に混じって人の声が聴こえた気がした。
わたしは振り返った。
すると3メートルほど先に、鼠色の無紋の服を着た虚無僧が杖を付いて立っておった。
わたしはその者を訝った。虚無僧は今の時代にはいないはずだ。
天蓋の籠を深く頭に被り、顔の見えない虚無僧がわたしに向かってまた声を掛けた。
「お主、なにゆえにこのような危険な場所を独りで歩いておるのだ。危ないではないか。もうすぐ日が暮れる故、さあ我と共にこの山を降りましょう。」
わたしは恐れ、その男に向かって叫ぶように答えた。
「俺は鬼だ。お前の肉を食い千切り、骨を三日かけてしゃぶるぞ。それをされたくなければ、俺から離れろ。」
虚無僧は、少し顔を俯けてじっとしておった。
わたしが手に汗握って反応を待っていると、虚無僧が恐ろしく重低音の響くチベット密教の聲明のような声でゆっくりとわたしに言った。
「我はお主を救う為に此処へ呼ばれて来た。我はお主も知る牡牛様からの遣いである。牡牛様がお主を戻せと我に命令したのだ。何があろうと我はお主を戻す。」
わたしはそれに応えず、虚無僧を後にしてすたすたと山中を歩いた。
虚無僧が後ろから走って来た。
「お主、待たれよ。」
わたしは振り返らず答えた。
「ふん。そんなこと言って、本当かどうかわからないよね。俺はもう決めたんだ。洞窟のなかで一生を過ごし、だれも知らない処で生きて死ぬる。すべての宇宙でだれひとり俺を知る者はいなくなり、すべての存在の記憶から俺は消えて失くなる。俺の本願を奪う権利はだれにもない。俺は絶対に戻らない。もしどうしても戻したいならば俺を殺せば良い。この肉体は戻るだろう。だがこの鬼の魂は、最早戻れる場所はない。」
虚無僧は何も言わず、無言で後を着いてきた。
俺は構わず、俺を永久に閉じ籠める地下の穴を探しながら歩いた。
日が、暮れかけていた。
日が暮れたあとは、山のなかは真暗闇、月明かりも星明かりも届かぬ場所でそれでも俺は歩いた。
気づくと俺の両の目から涙が流れていた。
やっぱり俺は鬼だったんだ。暗闇のほうが、すべてが見えて来る。
すべてが懐かしく想えて、俺は泣いていた。
虚無僧が、ぼそっと後ろから声を掛けた。
「鬼も泣くのか。」
夜のあいだ中、ずっと歩き通し、谷底を降りて行った。
其処は、まるで奈落のように見えた。
その穴の底に、俺は降りて行った。
虚無僧は身軽な足取りで着いてきた。
光の存在しない洞窟の奥で、俺はホッとして身体を母の胎内で眠る児のように丸めると眠りに就いた。
虚無僧は五本の蝋燭を眠る俺の周りに並べ、それに火を付けた。
そして結界の外で低く囁くように呪詛を唱えた。

かぁごめかごめ かごのなかのとりは いついつでやる
よあけのばんに つるとかめがとぅべった
うしろのしょうめんだぁれ

その瞬間、すべての火がふっと消えた。
わたしは夢を見た。
巨大な牛頭人身の魔物が、わたしの大切な人のすべてを生きたまま食べる夢だった。
わたしは以前に見た夢を憶いだした。
世界が終わる前には、時間が止まっているように感じる。
そのことを何者かがわたしに夢で伝えた。
時間が過ぎない。
時間が過ぎているように感じない。
終末のとき、すべてがそう感じる。
時間が過ぎることをどれほど祈ろうが、時間は存在していないのである。
虚無僧がわたしに優しく声を掛けた。
「さあ眠りから覚めなさい。その日に堪えられるように、いつでも目を覚ましつづけていなさい。」
わたしは目を開けた。
其処に、存在する世界があった。























起始湎

僕の鬱症状は、酷くなっているようだ。
何故なら、前歯が欠けた。
要因はたくさんあるが、大きな要因として、暴飲暴食(酒と過食)、歯を磨かないことがあるだろう。
前歯が欠けるほどに虫歯が酷くなっているのに昨夜も歯を磨かずにいつものように褥に倒れるようにして寝た。
限界までいつも酒を飲んでしまうからである。
そして朝起きても歯を磨かない。
顔も洗えない。朝から鬱だからである。
それが一週間以上続く。
一週間以上歯を磨かない、顔も洗わない。
そして食べたいだけ食べて飲みたいだけ酒を飲む。
また黒糖を入れた紅茶やコーヒーを飲む。
これを約一年続けた結果、僕は、歯ァ欠けた。
昨日、風呂場で大きく欠けた前歯を見たとき、わたしは本当に悲しかった。
疲弊し、赤ワインを二杯飲んで徒歩30分以上かけて歩いてPokémon GOをしに出掛けたのだった。
帰りは電車で帰って来た。
常に、欠けた前歯の悲しみがわたしの根源的な意識に覆い被さっていた。
わたしはわたしではないのだと想った。
わたしはわたしではないし、わたし以外のだれかでもないのだとわたしは想った。
わたしの記憶がわたしをわたしだと想っているかも知れないが、わたしの記憶がわたしではないのだと想った。
きしめんがわたしの腸のなかでわたしだと想っているかも知れないが、わたしではないだろう。
きしめんがわたしならば、なにゆえ、前歯が欠けたことをこれほど悲しむのか。
可笑しいではないか。
わたしはきしめんではないことは確かであるようだ。
わたしは"きしめん以外の何者か"という定義を自分に下してみたが、なんでそんな定義をいちいち下す必要があるのだろうか?
「きみは独りじゃない。」と人に励まされたが、なんで独りじゃないのにそんなこといちいち否定する必要があるのだろうか。
それは「きみは独りだ。」と言われてるのも同じではないか。
なんで独りであることなんてわかってるのにそんなこといちいち人から断言されなくてはならないのか。
俺とバトルしたいのか?
きみは自分がきしめんではないという証明ができるとでも想っているのか。
きみは前歯が欠けないからって安寧の生活を送っている気になっているかも知れないがきみは自分がきしめんではないという証明を宇宙に向かって叫ぶことはできるとでも想っているのか。
もし想わないならば何故、なにゆえに想わないのか?
世界の、宇宙の始まりに、きしめんが一匹闇のなかを泳いでいるというイメージをしたことはあるのか。
何故、きしめんが宇宙の起源であるというイメージをしたことはないのか。
我々の起源がきしめんであった場合、なにゆえわたしは前歯が欠けたことをこれほどまでに悲しまなくてはならないのか。
わたしは自分がきしめんではないという証明を何故できないのか?
何故、きしめんはペラペラの薄っぺらい存在であるのにそのなかに、内臓や器官を持っているのか。
きしめんには目も鼻も歯もない。
しかし、その顔に、口腔はある。
そしてその口腔と肛門はなかで繋がっている。
そのきしめんの肛門から、生まれ落ちたという想像をわたしたちは、何故しないのか。
わたしたちは一匹の白いきしめん状の生命体の腸内のなかにある宇宙という空間にある地球という星のなかに住んでいる。
だがそのきしめんは、さらなる巨大なきしめんの肛門から生まれ落ちたのである。
わたしたちは永遠に生まれ落ちる。
きしめんはみずからをほんとうに愛するとき、じぶんの口腔と肛門を繋げ、輪を作り、子をみずからのなかに産卵する。
無数の白いきしめんサークルが、暗闇の宇宙に泳いでいる。
それは、仄かに虹色に光り輝いている。
くねくねと、みずからの軀をくねらせながら。
楽しそうに。
終わらぬこの歓びのなかに。















Untied cord

昨日は朝5時前から起きていて、朝から酒を飲んでいたので早くも夜の9時過ぎに寝床に倒れ、僕は眠りに入ったのだった。
そしてパソコンで「マイ・プライベート・アイダホ」を録画していたので録画終了ボタンを押す為にアラームを23時過ぎにセットし、目が醒めた。
僕は二度寝をしようとしたができんかった。
なので先日に買った中原中也訳のランボオ詩集を手に取り、毛布に包まれながら読み始めたのだった。




雌鳩らは、静かに飛んで、我が寝そべつてゐる
芝生の方までやつて来て、私のまはりに羽搏(はばた)いて
私の頭かうべを取囲み、我が双の手を
草花の鎖で以て縛いましめた。
薫り佳き桃金嬢もて飾り付け、さて軽々かろがろと私を空に連れ去つた
彼女らは雲々の間あひだを抜けて、薔薇の葉に
仮睡まどろみゐたりし私を運び、風神は、
そが息吹いぶきもてゆるやかに、我がささやかな寝台とこをあやした。

鳩ら生れの棲家に到るや
即ち迅き飛翔もて、高山たかやまに懸かるそが宮殿に入るとみるや、
彼女ら私を打棄てて、目覚めた私を置きざりにした。
おお、小鳥らのやさしい塒ねぐら!……目を射る光は
我が肩のめぐりにひろごり、我が総身はそが聖い光で以て纏はれた。
その光といふのは、影をまじへ、我らが瞳を曇らする
そのやうな光とは凡おほよそ異ちがひ、
その清冽な原質は此の世のものではなかつたのだ。
天界の、それがなにかはしらないが或る神明しんめいが、
私の胸に充ちて来て大浪のやうにただようた。




読み始めてすぐに、僕は感動に包まれ、全身を、光と愛に満たされたそのとき、除夜の鐘の音が遠くで鳴り響いた。
おお、天の父と聖霊たちはこの宇宙で最も愚かなわたくしに最も素晴らしい年越しを与え賜われたのか…!
感涙し、神からの愛の深さに打ちのめされたるあと、僕の今求める詩がそのあとあまりなく、退屈を覚えながらページを捲りまくり、飛ばしまくって読み、不満のなかに、本を閉じ、拗ねて口を尖らせてわたくしは寝くさった。

僕は夢のなかで、様々な体験をした。
だが目を覚ますと、僕は一つの断片をしか記憶していなかった。
夢のなかで、僕は兄と車で出掛ける予定だった。
僕は嬉しかった。
そんな経験は、今まで何度あったろうか。
あまり兄とわたしは二人で出掛けることはなかったのである。
わたしは欣びのなか、支度した。
兄は「先、車に行ってるわ。」と言って先に家を出た。
わたしは慌てて、急いで、準備した。
そして玄関に向かい、しゃがんで靴紐を結んでいた。
それが意味のわからない靴紐だった。
何をどうやってもうまく行かなかった。
想うように結べなかった。
僕はずっとずっと必死に、ちゃんと、ほどけないように紐を結ぶことに夢中になり、その間ずっと兄を独りで待たせていることに途方に暮れながら苦しんだ。
早く、早く、わたしは兄のところへ行きたかった。
そして車に乗って二人で一緒に出掛けたかった。
すると玄関のドアが開いて兄が戻ってきて、兄は怒りと悲しみのいつもの恐ろしい形相でわたしに言ったのだった。
「2時間も待っとったんやぞ。」
マジか…。まさか二時間も経っていたとは…わたしは想わなかった。
嗚呼、叶わなかった。
愛する兄と二人で出掛けることができなかったわたしは、悲しくて、兄にも申し訳がなかった。
二時間も、兄はマンションの下に止めている車のなかで独りで待っていた。
準備を整えたわたしが降りてくるのを。
兄はもしかするときっと天にいたときも、こんな感じだったのだろうかとわたしは目が醒めて想った。
わたしが降りて来るのを兄はずっと待っていた。
だがわたしが降りて行って母の子宮に受胎したのは兄が生まれてから五年もあとだった
わたしは自分の青写真を作るのに時間を掛け過ぎたのか。
本当はもっと早く、降りて行くことを兄と約束していたのかも知れない。
わたしは降りて行くのが遅れた為、わたしと兄は、ずっと離れて互いに独りで暮らしているのだろうか。
本当は共に、ずっと一緒に暮らす約束を、していたのに。




















Mince

死体をミンチ状にしたことって、経験ある?
どうしたの。突然…。
マグロとかさ、たたきにしたことある?俎板の上で。
あるかな…。記憶に無いけど…。
そういう感じにさ、人間の顔面をミンチ状にしたいなって想ったことある?
…ないよ。
そう…。可笑しいね。僕もないけど、見たんだ。
何を?
今朝、見たんだ。女性の顔を、ミンチ状にする夢を。
またえらい悪夢見たね…。
貴方の撮った死体写真の影響だよ。
そうか…。
最初は、大きなシャベルで切断して、細かく切り刻んでゆくんだ。
仰向けになっている女性の顔を。
夢のなかだから、なんでもありで、上手く切断できるんだよね。
でもそのあと、ミンチ状にするっていう工程なんだ。
彼女の頭部はさ、最初からミンチ状になるっていう決まりがあって、人類の大半が、それを認めてるんだ。
彼女の顔はさ、最初からミンチ状になる為に、存在していたものだし、彼女の顔面はミンチ状になる為に、ずっとその顔が、そこに存在していたって事なんだよ。
ツリが撮った死体写真もさ、ミンチ状まで行かないとしても、それに近い状態のものがあったじゃん。
そうだね。
その人たちもさ、そうなる未来が、決まっていたんだよ。
肉の塊、ブロックやたたき、その違いがあるだけでさ、人間が調理して食べる肉と同じようなものにさ、最期はなるために、その顔が、その身体が、その肉があったんだよ。
でも誰も食べないでしょ…。
いや、食べるんだよ。
誰が?
遺された人間たち。遺された者たちがさ、食べるんだ。食べやすいためにさ、ほら、よく死体写真にもモザイクがかけられてるんじゃん。屠殺場の映像と同じにさ、見せたくないんでしょ。グロすぎるって言ってさ。同じだよ。神聖で穢されるべきものじゃないからモザイクかけるんじゃないんだ。ひたすらグロくて、不快で、人間が精神病まないで生きてくためにさ、見せるべきじゃないって魂が死んでる人たちがさあ、想うからだよね。
人間の顔だってさ、マグロのたたきや牛や豚や鶏のミンチ(挽肉)と変わりないでしょ。
何の為に存在してるの?マグロのたたきや牛や豚や鶏のミンチ(挽肉)を美味いっつって何とも想わずに食べてきた人間の顔がさ、何の為に存在してるの?
同じものでできてるのにね。死体喰い続けて来た人間がさ、生きてるなんてほざいてさ、生きてるわけないのにね。
生きてないからさ。最初から生きてなんていないのわかってたからさ、ミンチにしてやったんだ。僕が彼女の顔を。
まだ生きてる間にしただろってさ、非難受ける筋合いなんてないよ。
ミンチの顔の人間たちにさ。
手前ら、死ねじゃなくって、生きろよって(笑)生きてから非難しろよ。
で、僕の顔、今日ビデオに撮ってさ、Instagramに投稿したんだけどさ、ミンチ状になってんの(笑)僕の顔がさあ。
それで想いだしたんだ。嗚呼、そうだった。僕、散々ハンバーグとか、餃子とか、つみれとか、メンチカツとか、麻婆豆腐とかさ(笑)喰って来たじゃんって。それ全部、僕が僕の顔をミンチ状にしたやつだった!って想いだして、僕の顔が存在してるわけないってやっとわかったんだ。
そうだよ、時間が無いんだから、この世界は本当は。すべて、僕の食べてきた肉は僕の死体だったし、僕は一生懸命に、自分の食べる死体の為に、僕の顔を切断し、細かく切り刻んで、砕いてたんだ!
毎日、毎日、毎日…!
おぞましい、腐乱死体の姿で。
自分自身の顔をミンチ状にするその行為を延々と、繰り返し続けるんだ。
すべての、死体を食べ続ける人類のように。


























右手

人が、雑誌を読んでいて、ページをめくる。
おや?なんだろう...この写真は。
道端に落ちて踏み潰された生の手羽先かな...?
すると次のページには、その写真をズームアウトした本来の姿が映し出され、人は、あっ、と声に出して驚く。
人間の右手ではないか...。

人はその時、不快な感覚を覚えないでいることはできない。
そして、ふと思い出す。
そういや昨夜、手羽先食べたんだ。
この交通事故で亡くなった女性から千切れた、黄色みがかった脂肪や腱と白い骨の見える切断面の右手にそっくりな手羽先を...。

人は、思うのだった。
嗚呼、夜の道に、生の手羽先開いたものを置いてたら、人は、ドキッとするだろう。
これは人間の肉片ではないよな...と。
恐ろしいが、人は、それがなんであるかを確かめたいので、近づいてよく観ることだろう。
しかしどんなに近付いても、それが人間の死体の一部なのか、動物の死体の一部なのか、わからないだろう。
何故なら、その二つは、切り取られた場合、見分けが全くつかないものだからだ。
人は、気になるため、警察に電話し、こう言うだろう。
あのぉ...実はわたしの目の前に、道端に、人間の肉片らしきものが転がっているのですが...。
警察が遣ってきて、肉片を拾って、人にこう言う。
「"何の"肉か、検視の結果が出ましたら、改めて御連絡致します。」
翌日、電話が掛かってくる。
「検視の結果が出ました。あの肉片は、鶏の"死体"でした。どうやらあの近くで飼われていたクックたんという名の、雌鶏の死体の右の前肢(翼)の部分であるようです。誰かのいたずらでしょう。御協力、ありがとうございました。」
人は、受話器を置いたあと、あてどない悲しみを感じないではいられない。
クックたん...殺されたのか...。なんて酷いことをする人間だろう...。
嗚呼、お腹が空いた…。なんか食べよう。そうだ、チルドに入れたままの手羽先...忘れてた。あれ早く、食べないと...。
人はそれをフライパンで焼き始めたが、胃液が込み上げてくるのだった。
嗚呼、よりによって何故、わたしは手羽先を今から食べなくてはならないのか...。
一体、何の罪で、わたしは今から手羽先を食べなくてはならないのか。
クックたんが虐待され、生きたまま解体されたあと惨殺され、その死体が、スーパーに並べられ、わたしがその死体を買って、わたしが今、クックたんの死体を焼いて食べようとしているのだ。
人間の死体とそっくりで、見分けることさえできなかったクックたんの死体を、わたしは今から何故、食べなくてはならないのか...?
クックたんは、実際、どのように殺害されたかを、わたしは知らないが、クックたんは殺される直前まで、きっと鳴いていたのだろう。
クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック、クック...
嗚呼、そして...そして...何が起きたのだ...その次の瞬間...
人は気づけば、外に飛び出していた。
真夜中の道路、涙で、視界がぼやけていた。
人は何を想ったのか、咄嗟に、道路を渡ろうとした。
人は、スピード狂の車に激しく跳ねられ、轢き潰され、千切れた右の手首が30m先に飛んで、道端に落ちた。
その場所は、クックたんの殺害現場であった。
人が、そこを通り掛かった。
その落ちている肉片を観て、人は思った。
これは、鶏か...。
何故なら、それが、ずっと、ずっと、クック、クック、クック...と悲しげに鳴き続けていたからだった。


























ツリの煩悶地獄 六

今日も、遺品整理のバイトを終えて帰宅し、家に就いて、ツリは一服していた。
ビール缶を片手に、豆おかきを食べながら、疲弊を感じながらも、今日一日を無事に過ごせたことを感謝する気持ちで、幸福を噛み締めている時だった。
玄関のチャイムが、突然鳴った。
ツリは、吃驚した。一体、こんな時間に、誰だろうか?ツリは大変に訝った。
すると、ドアの前で、男の声がした。
「ヤマト宅急便です。」
ツリはホッとした。なあんだ、宅配便か。はて、何が届いたのだろう。
ドアの前まで行って、覗き窓から外を覗くと、確かにヤマト運輸の緑色の制服を来た男が、緑色の帽子を被って立っておった。
安心し、ツリはドアを開けた。
その瞬間、物凄い速さで、男に腹と、頭部を鈍器で殴られ、気絶した。
次の瞬間、ツリは、ヌルヌルとした、熱い血の味で目が醒めた。
鈍痛を、頭部の左上部分に感じて、ツリは想った。
俺の頭から血が流れており、その流れてきた俺の血を、俺が舐めている、そういうことか。
そして、あっ、とツリは想いだしたのだった。
そうだ俺、訳がわからないが、ヤマト運輸の男に突然、殴られたんだ…。
ツリは、此処は、はて、何処だろう…?と想った。
薄暗くて、良く観えなかった。
何か、物があるようにも観えるし、何もないようにも観えた。
とにかく狭いようで、広いようにも感じられたが、室内であることはわかった。
何故ならば、室内にいるときの、雨の音が、外から聴こえて来るからだった。
気温も暑くもなく、寒くもなかった。
一つ、明確にわかることは、自分は椅子に座らされており、両手首を、椅子の背凭れの部分に強く縛り付けられており、両足頸は、椅子の足に、それぞれ拘束され、自分は身動きがまったく取れない状態であるということであった。
一体、何が起こっているにだろうか…。
「いるにだろう」って何…?ツリは自分で突っ込んだ。
嗚呼、俺は…。俺は…。とうとう、捕まっちゃったのか。ツリは絶望した。
誰かわからないけれども、俺は、本当に捕まえられちゃったんだ。
色々と、ヤバいこと俺は遣ってきたものなあ…。遣りたいことを。
いつか、こうなっても可笑しくないことを、俺は遣ってきた。
いやさ、ずっと想ってたんだよ俺は。なんで俺以外の人間たちがさ、続々と殺されたり、死んだりしてゆくこの世界で、俺っていう何でも好きなこと遣ってきた人間が、まだ本当にヤバいことにはなってないのかなって。
いつか、こうなるって、何処かで恐れてたのかなぁ。
それが、叶っちゃったんだ。叶えられちゃったんだ。俺の潜在的恐怖が。
…。しかし此処は何処なのだろう?
ツリは、独り言をずっと喋って気を紛らわそうと必死だったが、いよいよ、堪え切れなくなり、不安が暗黒のコクーン(cocoon)のように、ツリを覆ったのだった。
目の前が、薄暗い感じだったのが、真っ暗になった。
嗚呼、俺とうとう、死ぬのか…。
誰かに、殺されるか、このまま、死ぬのかな。
助けてくれる奴、誰もいないのか。
俺みたいな人間、命懸けて助けてくれる奴、いないよなぁ…。
嗚呼、そういやあの娘、俺に”死の同志”だなんつった、はは、こず恵は…どうしているのだろう。
彼女、俺のストーカーになって、本当に俺の家にいつか遣って来るんじゃないかって想ってたんだがなぁ。
一向に、来ないんだよな。つまらんことに…。
死の同志とか、大層なこと言っておきながら、そんなもんなのか。
まったく、根性のない女だよ。俺を殺す勢いでさ、俺を殺すほどにさ、俺を愛してみろっつうんだよね。
死の同志だなんて言うならね…。
俺を、助けてくれないのか…。こず恵も。
ツリは、魂の底で、こず恵を、死の同志であるその彼女を、呼んだ。
その時である。
眩しい光の漏れる、ドアの隙間が開き、ドアが、閉められた。
何処かの角に、蝋燭の火でも灯ったかのように、部屋が、少し明るくなったような気がした。
ふと、気づくと、ツリの目の前、ニメートルほど先に、こず恵が、白いレース生地の花柄のミニワンピースを着て、神妙な顔で、彼を見つめて立っていた。
ツリが、驚いて、黙っていると、彼女は哀れむ顔をして言った。
「ごめんなさい…。」
ツリは、彼女に深く、息を吐いたあと応えた。
「やはり…貴女だったか…。」
彼女は、黙っていた。
その憐れむ顔は、何処か微笑んでいるようにも観えた。
ツリは、優しく、「おいで…。」と彼女に言った。
彼女が、涙を、絶え間なく流し始めたからだった。
ツリは、人相は、悪いが、本当に情に弱い、人情深い男なのだった。
彼女が、哀れで可哀想でならなくなったので、優しくしてあげたいと素直に想ったのだった。
でも彼女は、まるで一度、幼いときに父親に棄てられた娘のように、緊張してツリに近づくのを拒んでいた。
だから、ツリは、もう一度、ツリのなかに存在し得る、慈悲を最大限にした声で、彼女に言った。
「こず恵…。おいで…。」
すると、彼女は、不安げな顔のまま、つたたたたたたん。と、幼女のようにツリのもとへ駆け寄り、ツリの膝の上に、ちょこなんと痩せ細った身体を横にさせて載ったのだった。
ツリは、笑うのを我慢した。
堪えながら、優しく彼女に微笑みかけて、黒く、丸い目をして見つめる彼女を見つめ返した。
すると、初めて、彼女はツリに、恥ずかしげに微笑み返した。
ツリは、彼女が最愛の亡き父と、自分を重ねていることに気付いていた。
彼女の父親が、まるで自分のせいで死んで、父親がすべてであった彼女も一緒に死んだのだと、責められ続けて来たことも気付いていた。
ツリは、彼女に対し、潜在意識で深く罪悪心を懐いていた。
Twitterで、彼女が自分に対し厭味を言い始めた時、いよいよ始まったかと想った。
積年の、愛憎による呪詛の始まりが、とうとう始まったことを知り、ツリは居た堪れなくなり、ツリは、彼女を仕方なくBlockした。
彼女は、自分に対して、理想の父親であって欲しいのである。
何故ならば、彼女は理想の父親と、理想の母親をしか、この世に求めてはいないからだ。
でもそんなことは、到底、無理な話である。
一体、どうやって、他人である男が、彼女を無償の愛で愛し続けることができるというのか。
ツリは彼女の本当の欲求に、何も応える気はなかったし、応えられることは何もないことを知っていた。
此処に存在している虚しさを、彼女も、ツリも感じていた。
彼女は、自分に対して、殺意以上の、恐ろしい感情と念があるのも、ツリはわかっていた。
でも、どうだろう。今、実際にこうして彼女に拘束され、頭蓋骨も多分、陥没させられ、血が、だらだらだらだらと流れ続けて来るなかに、彼女を(心のなかで)抱っこして、ツリは観念しているのか、変な安心を感じているのだった。
嗚呼、きっと俺はもうすぐ死ぬのだろう…。
彼女は、俺の頭蓋骨陥没に、当然、気付いているはずなのだが、一向に、応急処置をしようともしないじゃないか…。
そんな自分の悲しみに彼女はエンパスなので、すぐさま気づき、ツリを睨みつけた。
嗚呼、俺は睨まれている…。蛇に睨まれたる蛙の如きツリは彼女を深い眼差しで見つめて言った。
「だいぶ…朦朧としてきたよ。こず恵…。俺の命も、もうすぐ事切れるのかもしれない。」
彼女は、ツリの陥没した頭の肉の割れ目を観て、ツリに向き直るとホッとした顔で微笑んで言った。
「大丈夫。ツリ。生きてるよ。」
「…。」
話が通じてるのかな…この娘(こ)…。
ツリが、絶望の闇のなかで煩悶していると、彼女が、急にツリの膝の上でもじもじとし始め、何かを自分に要求していることに気付いた。
ツリは流れ落ちて来る血に、目を瞬かせて血の涙を流して訊ねた。
「何かして欲しいことがあるの?言って御覧。後生だからね…。」
すると彼女は、恥ずかしげに身をくねらせながら、頬を赤らめて、幼女のようにツリに向かって囁いた。
「パパ…。キスして…。」
ツリは、生唾をごくりと飲んだ。とうとう、来たか…。これはただのごっこではない…。
もう本当に、死ぬな…。俺、死ぬわ…。ツリは、自分の意識が薄れて行きそうな気がした。
嗚呼、もう本当に俺は死ぬよ。死ぬなら…最期に、彼女の望みを聴いて死んでやろうじゃないか…。
ツリは、彼女にそっと、父親のようにキスしてあげた。
すると、嗚呼、どうしたことだろうか、こんな死の間際に。
ずっとEDだったのに…。ツリは自分の陰茎が激しく勃起して、彼女の太腿に突き立てていることに気づき、興奮した。
ツリは、彼女と激しくキスし始めると、舌を彼女の喉の奥に突っ込み、自分の熱い血を彼女に飲ませた。
そして、もう堪らなくなったので、彼女に懇願した。
「こず恵…。縄をほどいてくれ。」
彼女は、不安で仕方ないという顔をして、ツリを見つめると、首を横に振った。
ツリは、倒れそうな感覚のなか、彼女に言った。
「こず恵を、この手で強く抱き締めたいんだよ…。」
彼女は、目を伏せ、涙を流した。
ツリは彼女の涙を舐め回し、勃起した男性器をぐりぐり彼女の女性器に激しく擦り付けた。
彼女も、激しく欲情し、小さく喘ぎ始めた。
あまりに激しく、ツリの身体に寄り掛かってくる為、椅子が後ろに倒れ、後頭部をしたたか打ち付け、ツリは衝撃で少しの間、気絶した。
そして、気絶から目が醒めると、縄はほどかれており、ベッドの上に、横たわっていた。
彼女が、幸せそうな顔で自分の身体に抱き着いて、寝息を静かに立てて眠っていた。
白いシーツが、殺害現場のように、真っ赤に染まっていた。
俺の血、全然止まる気配がないじゃないか…。
ツリは、何を想ったのか、側にあったデスクの上に、カメラを見つけると、彼女の着ている自分の血で染まった白い花柄のレース生地のミニワンピース姿を、その血のなかで、死んでいるかのような彼女の姿を、死体として、撮影し始めた。
そして、次は脱がして裸にすると、カメラを手に取ったが、ツリは、深い溜め息を吐いてカメラをデスクの上に戻した。
彼女は、静かにまだ、眠っている。
ツリは、死体を犯すように、彼女と交わった。
絶頂に達する瞬間に、彼女は息を吹き返すかのように息を深く吸い込んで目を覚まし、彼を見つめた。
自分の頭から流れ滴る血で、彼女の顔もまた、血だらけであった。
ツリは、もうすぐ、世界は終わることを知っていたが、彼女の目を父親のような眼差しで見つめ、静かに言った。
「こず恵、今から俺とこず恵の、結婚式を挙げよう。」
彼女は、本当に幸せそうに、微笑むと、うんと、頷いた。
そして次の瞬間、自身の背中に手を伸ばすと彼女はツリの額に銃口を突き付け、黒々とした目で言った。
「もうすぐ、生まれる。わたしたちの愛する子が…。」
彼女はトリガーに指を当てた。
ツリは、涙を湛えて絶望した美しい顔で彼女を見つめながら「何故なんだ…。」と言いかけた。
言い終わる前に、彼女はトリガーを引き、ツリは衝撃で後ろに激しく倒れる形で頭部と上半身を跳ね上がらせた。
だが、彼女を覆うように身体を載せている状態だった為、バウンドして彼女の身体の上に激しく倒れ込んだ。

約一月後、ベッドの隣で眠る腐乱死体と化した彼の頭部の腐肉のなかに手を突っ込み、彼女は彼の頭蓋骨を取り出すと、湯船に溜めていた温かいお湯のなかで綺麗に洗い、すべての醜く穢れた肉を洗い落とした。
そして彼の死体の隣で、赤子のように彼の白白とした頭蓋骨を胸に抱いた彼女は横たわると、此の世の何より幸せそうな優しい顔で眠る髑髏を見つめ、彼女は幸福に満たされながら言った。
「これは、わたしの愛する子。わたしの、死の息。」


























oOoOO - Starr


























ツリの煩悶地獄 四

ツリは、彼の命懸けで撮り続けて来た死体写真集、『THE DEAD』 の刊行に寄せての言葉のなかで、こう述べていた。







「世界は残酷だ。

 それでも世界はやはり美しい。」






僕は、そんなツリに、昨日、Twitterのダイレクトメールで、こう問うた。

ツリの愛する人が、こんな最期を迎えても、「世界は美しい」と、言えるのですか…?と。

















しかし、わたしはツリから、とうとう答えて貰わぬ内に、アンフォローされてしもうた。
理由は、ダイレクトメールによる「私信の濫用」であるようだ。
わたしは昨夜、朝から夜までずっと、酒を飲んでおった。
昨日はわたしの愛兎、みちたの、一回忌であった。
とにかく、ずっと飲んでいた。何も、何も、何もしたくなかった。
何もしたくなかったから、愛する死の同志であるツリに、何度と切実に話し掛けた。
酩酊状態で、何もしたくなかった。
僕のメッセージをスルーし続けるツリに、僕は切実にこう厭味を言った。
『自分のドウデモイイツイートはするのに、わたしの切実なメッセージは読んで戴けないのですね。』
ツリは、いい加減、怒(いか)った。
「一度冷静にご自身の書き込みをかえりみてもらえますか? 
その上で、これ以上分をわきまえないようでしたらブロックするしかありません。
私信を濫用しないでください。
ただそれだけです。
僕はこう見えても忙しいんですよ。」
と優しく言いながらも、心では、想い切り、ムカついていた。
僕はツリと、その後、約一時間ほどかけて少し会話したのち、9人おったフォロワーの、ケロッピー前田氏を含む、8人全員を、アンフォローさせた。
そして、嬉々として、ツリに、言った。
「フォロワーがツリだけになった!」
数秒後、ツリは、僕を無言でアンフォローした。(僕は謝罪の言葉を一言も言っていない。)
僕は、絶望にうちひしがれ、ツリを、罵りたくなった。
寝ても、目が醒めると、ツリに対する悲憤と不満が溢れてきて、とうとう、ツリに電話を掛けた。
留守電やった。
僕は、緊張しながらも、絶望と悲しみとアルコールの残留で朦朧としながらも留守電にこう遺した。
「何故、教えて、戴けなかったのでしょうか...?
 何故、釣崎清隆氏の、撮ったアダルトビデオを、どうしたら、観れるのか?
 という質問に対し、答えて戴けなかったのでしょうか...?
 良ければ、御答えください。ガチャっ。」
そう必死に、蚊の哭くような声で、きれぎれに言って、携帯の受話器を置いた。
ツリから、電話は掛かってこない。
彼は、僕に対して元々、真摯に向き合いたいという気持ちが、あらへんのです。
いいえ、彼は、根源的に、人を、愛せないのです。
だから、「世界は美しい。」と、言って退けるのです。
違いますか?
ほとんどの人は、生きたまま解体された動物の惨殺死体を喰らいながら、笑ってる。
その世界を見ても、「世界は美しい。」と、言えるのは、ツリが人を愛せない人間だからなのです。
愛していないから、別に、人が、誰が、地獄に堕ちようとも、ドン底に突き落とされようとも、
拷問を受けて死のうとも、ええのですと、想っとるのです。
違いますか?
卵を大量生産する為に、雄のひよこは全員、






このように毎日、毎日、大量に生きたままミンチにされている。
それを観ても、ツリは、言うのデス。
「それでいて世界は美しい。」
レンダリングプラントで、瀕死の牛や馬がブルドーザーで運ばれてきて、丸まま巨大撹拌機に投げ込まれ、そのなかで、地獄の底からの悲鳴と絶叫を上げる者がいようとも、









ツリは、言うのデス。
「世界は美しい。」
生きているのに、手脚を切断される人間と動物が、なくならないこの世界を見て、ツリは、それでも言う。
「世界は美しい。」
ははは、そうだよ、ツリ、貴方にとっては、世界は美しいのDEATH 。
人を、動物を、愛せない貴方にとって、世界は本当に、美しいのDEATH 。
耀いているのDEATH 。キラキラ光り続けていて、眩いのDEATH 。
目が眩むほどに。
貴方の愛する娘が、家畜の如くに、レイプされ、生きたまま解体されるか、生きたままミンチにされようとも、世界は光り耀き続け、眩むほど、美しいのDEATH 。
嗚呼、そんな人間が、この世界にどれ程いるだろうか...!
20代で、スプラッターポルノ・SM・レイプ物のAVを監督し、その後、四半世紀も死体写真を撮り続けて来た男が、普通であるはずがないやろう。
普通の感覚で、人間を愛することなんかできないのDEATH 。
狂気も病気も、とうに超えてしまっているんDEATH 。
普通に人間を愛せないのDEATH 。
人間を苦しめることが、人間を地獄に突き落とすことが、ツリの人間に対する愛なんDEATH 。
ははは、僕は、最初の最初から、それに気づいていたんDIE 。
そうでなければ、僕はツリを、愛さなかった。
僕はだから、ツリが、本当に、どうしようもないほどに悲しくて、美しい存在であると、確信した。

僕なんだよ。
俺なんだ。

わたしは、人間を、愛せない。

だれも、愛せない人間DEATH 。

愛する貴方と同じに。








「世界は残酷だ。

 それでも世界はやはり美しい。

私はただひたすら美に殉じたいと願うばかりだ。」

釣崎清隆







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ツリの煩悶地獄 三


漸く、わたしは時間を遡り、時間を止めることのできる能力を、覚えることに成功した。
そして、わたしは彼らを、助けに行くことにした。
一緒に来てくれないかと、わたしはツリに言った。
ツリ以外に、頼める人はいなかった。
彼は、三日間の間、沈黙した。
だが、四日目の朝に、彼はそれを承諾し、一日でわたしたちは準備をし、時間を止めたその当日のイラクの地に、降り立った。
わたしたちは時空を超え、彼らがショットガン処刑を受ける0,001秒前に、彼の前に降り立った。
イスラム国の黒い覆面を着けた男に、ショットガンの銃口を顔面に突き付けられている美しい若い青年が、跪かされて地を見つめ、手を後ろで拘束されている。
他にも同じ赤い服を着せられ、2人の男が並ばされて跪かされていた。
彼が顔面を激しく破壊されて銃殺処刑される0,001秒前、彼の額の前に擦れ擦れで、銃弾が中空で止まっている。
僕とツリは顔を見合わした。
僕らは、過去に来ている。
もう何年も前に、彼らは、人類史上、最も残虐な方法の一つで、殺されたのだ。
でも僕らは、こうして過去に戻って来れることができた。
僕は、その彼の美しい顔を見るに堪えないものにしたその銃弾を、指でつまんでポケットに入れた。
その銃弾は、摩擦で、燃える火箸のように熱かった。
ツリは僕の手を掴んで見た。
だが何も火傷しておらなかった。
時間が止まっている為に、本当の熱さではないからだろう。
僕は感覚だけを、感じた。
さあ、早いところ、連れて帰ろうよ。
僕は深い息を吐き出すように力なく言った。
ツリは僕に訊いた。
何処に連れて帰るんだ。
僕はツリの悲しい目を観て言った。
この国やこの国の近くにおらせとったら、また捕らえられて、処刑されてしまう可能性があるだろう。
だからやはり、僕らのいる時間、あの日本に連れて帰るのが良いと想うんだ。
彼処におれば、イスラム国が遣って来ることはないだろう。
ツリは、溜息を吐いて言った。
殺される運命に在る者は何処に行ってもいつか殺されるのではないか。
君も言っていたじゃないか。
これは人類の罪による”犠牲”なのだと。
では彼らが殺されなかった場合、その犠牲は一体誰が代わりに払うんだ。
僕は充血する見開いた眼でツリの眼を見つめて言った。
決まってるじゃないか。僕とツリだよ。
僕らが彼らの身代わりになる為に、今、僕とツリは此処にいるんじゃないか。
他の誰かを身代わりになんてできないからね。
何なら、ツリ一人だけで彼らを日本に連れ帰ってくれよ。
僕一人此処に残って、イスラム国の男たちに時間を戻したあとにこう言うんだ。
悪いが彼らを殺させるわけには行かない。
その代わり、僕を好きなようにレイプしたあとに殺せば良い。
僕はきっと彼らに良いようにされるだろう。
彼らは顔を見合わし、驚いて困惑しながらもニヤニヤして嗤っている。
この男たちは、自分がこれから何をするのか、全くわかっていないんだ。
僕はその場に跪いて手を後ろにし、処刑される姿勢で叫んだ。
神よ…!あなたの御心が、成就されんことを…!
ツリは話を聴いていなかった。
さっさと彼らの拘束具を外し、彼らを起き上がらせ、憂いのたっぷりと籠もった表情で僕を正面から見つめて突っ立っていた。
そして少し鼻で笑うと優しい顔で言った。
さあ、日本へ帰るか。時間が戻らない内に。
僕は、心底、ホッとした。
ツリは僕を起き上がらせ、捕らえられていた三人の男と共に日本に戻って来た。
彼ら三人は、日本語がわからないし、英語も知らない。
各々に、彼らは自分の国の言葉で僕とツリに向かって、あらゆる言葉を話した。
一体、此処は何処なんだ?
何故、僕たちは、此処にいるんだ?
あなたがたは、一体、誰なのだ。
何を僕たちに、するつもりなんだ。
僕たちは、さっきまでイスラム国に捕らえられて、ショットガン処刑を受けるところだったはずなのだが…
あなたがたは、僕たちを助けてくれたのか?
どうやって助けたんだ?
あなたがたは、超能力者たちなのか?
それとも、此処は、夢のなかなのか…?
此処は、ツリの部屋で、外は嵐が過ぎたあとでどんよりと曇っていた。
僕はツリの部屋にあった赤ワインのボトルと、グラス5つと、豆おかきを持ってきて彼らの座る前の床の上に置いて、赤ワインをすべてのグラスに注いだ。
そして彼らの手と、ツリの手にグラスを渡し、みずからもグラスを手に持って言った。
今日は、神に祝福された日だ。
神の血を、一緒に飲もう。
僕は、涙を流していた。
僕は、先に自分だけ赤ワインを飲んだ。
すると安心してか、彼らもそれを飲んだ。
最後にツリも、飲んで豆おかきを食べた。
僕らはみんなで、言葉も通じないのに、気づくと微笑み合って、ホッとした気持ちでお酒を共に飲んで、共に豆おかきを食べた。
この日、何かが始まったんだ。
この宇宙で、死が、何かを産み落としたんだ。

翌朝、雑魚寝している皆のなかで一人起きて、美しい僕の愛する彼が、僕を起こして、寂しそうな顔で言った。
「故郷へ帰りたい。一緒に、帰って欲しい。僕の家族が、君を祝福する。」
僕は涙を流し、彼を優しく抱き締めて言った。

でも、観て御覧よ…。
僕は部屋のカーテンを開け、彼に外を観せた。
この世界。
このツリの部屋以外に、何一つ、存在していないよ。
もうみんな、すべて、滅び去ったあとなんだ。
今日は、2025年10月10日。
君が殺されたあの日から、十年、経ったろうか…?

























ツリの煩悶地獄 二

わたしは愛するツリと、本当に、
SEX蛾死体DEATH。」

と、とうとう一線を越えた言葉を、私は危ない気狂い系の熱烈なふぁんの女性から、Twitterのダイレクトメールで告げられてしまつた。
うーん。また、この糞忙しいときに、ファンと見せ掛けたアンチツリによる嫌がらせではあるまいな...?
私は今、急いで脱稿せんければならぬ執筆に気が気でならず、筆が進まぬ気晴らしにTwitterをちょいと触ればこの在り様。
怒濤のように私に対するこの女性からツイートとDMが送られてきよるから、どうしたものかな。
この女性はもしかしてアレなのかな、私を脱稿させたいのではなくて、脱肛させたいのかな?
本気なのであろうか?
私から返信がなくて苦しいのだと言われても私も今、私のあらゆる苦しみに苦しんでいて、もう何をどうしたら、何をどう着たら良いのか分からず、ステテコを頭から被ってみたものの、そんなことをしても、何一つ、筆は進まなかったではないか。阿呆たん。
それで、一体にこの女性は私に何を求めているのかと想っていたら、今日の午後、こんな言葉が彼女から届いたのである。

「僕は愛するツリと、本当に、
 SEX蛾死体DEATH。」

一体、何なのだ。これは。
おちょくっているのか、この私を。
死体写真家として死体で飯にありついてきた私に対する嘲りと愚弄と憫笑と陵辱なのか。
私は、深い深い溜め息を吐き、目を閉じた。
うーん、目が、目が、じんじんするな。
そして疲れて憑かれて私は横になっていた。
す、る、と、闇のなか、彼女が、私に向かって言った。
これは、暗号だよ。大事な暗号なんだと。
私は夢と現実の合間で、闇の内側から囁く彼女と共に、この暗号を解き始めだす。
""の形を見つめてごらん。
これは...。
あっ、これは...。
そうだよ、真っぷたつに、されてるでしょう。
永遠のマーク、無限の印が。
を、縦にして、真っぷたつに切断すると、になるんだ。
あっ、本当。これはすごい発見だ。
次行こう。
早いな、おい。
次はなに?
次は""だよね。
あっ、早くも、わかった。
何?
これも真っぷたつにしてるんだね。
と言う字を。
そうだよ!
日本が真っぷたつにされるという預言だよね。
違うよ。
違うんか。
日は、太陽だ!
太陽が、真っぷたつにされるのか。
そうさ、光のもとが、二つに切断され、分かれるんだ。
これは詩的だ!
では次行こう。
もう行くのか。
次は、""!
見つめてごらん。
ピラミッドの上に逆ピラミッド乗っかってる!?
土台と天井の線がないやろ。
ないね。
わかったぞ!
なんだ?!
傾けた十字架だ!
ツリ!その調子!
イエスが磔にされている十字架が、傾いてるのがなんだ!
素晴らしい!
でも、何故に傾いてるの...?
土壌がワヤやから?
ちゃんと深く地に、突き刺さんかったから?
これは、イエスの心境が表れているんだ。
人は、恍惚の時も、地獄の時も、傾くんだ。
...。
立っていられないんだよ、真っ直ぐに。
もうぐらぐらで、どっかのおっさんに肩ちょっと当てられただけで、倒れそうになるほど、グラグラヤネン。
で、ワレどこ見てさらしとんねん。ゆうておっさん傾いてた十字架を振り返る。
つとそこに、傾いとった十字架あったはずやのに、見たらあらへんねん。
おい、ワシ、幽霊でも見よったンけ、キリストの亡霊見てもうたんけ。縁起ええんかよおないんか、わかりまへんなあ、正味。ゆうて、まあ気ィ取り直して一杯道頓堀で酒飲んで帰ってこましたろ。ちゅて、おっさん、去(い)んで(去って)もうてんね。
...何の話...?ツリ...。
あっ、聴いてた?私、寝てた...。  
おい...大丈夫?ツリ...心配やね。 
あなたがゆうな。 
では、次、行って、こましたろ。
throughか!
次は、""!
これは昆虫の蛾の字やんね。
せやで、よう見ておくんなっしゃ。
うー。うー。うー。
何?
うーぱーるーぱー?
違う!わかっちったぞ!
なんだよ。
虫編に、(われ)と書いて、やないか!
そう。
あれ?そるで、それで終わり?
終わってへんが!
終わってへんがか!そらすまへなんだ。
知らんのか、あんたさん。
何のこと?
あの、戦慄の、実験を。
何?それ、怖そう...。
ぼくさ...。
どうした。
ぼくさ、最近、遣っちゃったんだよな。
何を遣っちゃったんだよね、あなた。
だからさ、アレ、だよ。
ドレ、だね。 
だから...ぼくさ、前にとうもころし買ってきてン。
とうもろこし🌽ね。
とうもころしの先っちょ、切ってンね。
カスカスやったさかい。
ふんだらね、
踏んだのか。
踏んでへんよ、ふんだらね、
ほいだらね、ほたらね、...切断してもうてん。
ともうころしの先を?
ちゃうよ、そんままやないか!
蛾の蛹をだよ...!
マジか...!
知らんかってん。ほんまぼく、知らんかってん。真っぷたつに、蛾の蛹、ちょんぎってもうたんや。
ふんでどうしたんだ。
ふんでね、二つに分かれた上半身と下半身を、くっつけたんや。
くっつけて、くっつくのですか。
死への羽ばたき」というアメリカの昆虫学者カロール・ウィリアムズ博士が
1942年に行った実験について、調べてみようでは、ないか。
(蛹の正面の構造が人間のペニスとヴァギナを合わせたような形であることにも注目しよう!)
うむ…。








horror-pupal-test


①は完全なサナギである。
②は半分に切って、それぞれの断面にプラスティックをかぶせた。
③は切り離したサナギの前後を、プラスチック管で連結したもの。
④は前後を連結してあるが、管のなかには可動の球が入れてあり、両者の間に組織が移行しないようにしてある。





一ヶ月後


horror-pupal-test5


①は普通に変態し、ガとなった。
②は前半の部分だけが変態し、後半部はそのままだった。
③は傷が回復し、ホルモンが流れるように管のなかに組織が橋渡しされて、前半部も後半部も変態を起こした
④は可動の球が組織の発達をさまたげて変態が起こらなかった。

死への羽ばたき


horror-pupal-test6


実験の最高潮である死の飛行

前と後ろの両部分とも変態した③のサナギは

羽化して蛾となり翅を羽ばたかせて、飛び立とうとした。

しかし、プラスティック管内で発達した弱い組織はすぐに切れ、

蛾は地に落ちて死んでしまった…


僕が、アワノメイガの真っ二つにしてしまった上半身と下半身の蛹をくっつけて、固定させ、
何が何でも羽化させようとしたのは、
今でも、本当にDangerousな実験だったと感じている。
でも、もし、無事に成功したならば、彼(彼女)は、夜の大空へと、羽ばたけたはずなんだ。
死への羽ばたきではなく…。
一体…そのアワノメイガの蛹は、どうなったの?
残念ながら、白い黴がほっわほっわ生えてきて、放っといてたらカッスカスになってしまったよ。
……。
つまり、実験は、失敗に終わった…。
彼(彼女)を、羽化させることが、僕にはできなかった。
そのことが、心残りなのかね。
…。違うよ、死と、蛾は、かけ離れていないんだ。
どういうことだね?
つまり…人間もまた、”死への羽ばたき”をする可能性のある実験として、
この地上に生まれてくるんだよ。
……。
僕らは皆、自分自身を、実験しているんだ。試しているんだよ、常に。
なるほど…そういうことか。
どこまでの恐怖に堪えられるのか?どれほどの痛みに、苦しみに、悲しみに、堪える力を身につけられるのか?
どんなに深い愛で、他者を、我を、愛して死んでゆけるのか?
すべてを愛せるのか?
愛することのでき得る者だけをしか、愛せないのか?
すべてを、本当にすべてを経験する為に、僕らは自分のこの不自由と感じる肉体の、この狭苦しく、暗い殻のなかで、ひっそりと息衝きながら、夢を、抱いて眠っているんだ。
ある者は、へと羽ばたき、死んでしまう。死体と化してしまうんだ。
でもある者は、何処かへ羽ばたいて、飛んで行ってしまう。
自分でも何処にいるのか、わかってないんだ。
ずっとずっと地の上を這い続けて、一度も羽ばたかずに、事切れる者もいる。
何がで、何がでないのか。
最早、僕たちはわからない。
そのすべてを表現した言葉が、
SEX蛾死体DEATH。」
この暗号の意味を、僕は決して、忘れないだろう。

























プロフィール 1981生 ゆざえ

ユザエ

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